セラピストにむけた情報発信



隙間通過判断に見る車いすの車両感覚:事前の運転経験で得られる情報
Yu et al. 2012
 


2013年4月29日

今回ご紹介するのは,車いすの車両感覚(いわゆるアフォーダンス知覚)に関する論文です.ミネソタ大学のStffregen氏のグループの研究です.

Yu, Y.Postural and locomotor contributions to affordance perception. J Mot Behav 33, 305-311, 2012

彼らは以前から,車いすでギリギリ通過できる“高さ”に関する知覚判断についての研究を継続的に行ってきました.ここで参加者に要求されるのは車幅ではなく,車いすに乗っているときの頭の高さになります.

これまで彼らは,知覚判断に先駆けてたった2分だけ車いすの操作をする機会が与えられるだけで,知覚判断が向上することや,知覚判断時に頭部を車いすに固定すると判断が不正確になることを報告しています.そのうちの1つの研究については,こちらをご覧ください

今回の実験では,知覚判断に先駆けて実施する車いす操作について,自走の場合と他者による運転の場合を比較検討し,事前の運転経験の何が知覚判断を向上させるのかについて検討しました.

その結果,事前の運転が自走の場合にのみ,知覚判断の向上が見られました.また自走の最中に頭部を拘束しても,自走の効果は保持されました.このことから,知覚判断を向上させるうえで大事なことは,自走中に獲得される車いすと環境の関係性であり,車いすと頭部の動きの関係性ではないと言えます.



今回の研究を単独の成果として見れば,これまでわかってきたことにわずかな成果を積み重ねただけともいえるでしょう.しかしながら研究においては,自らが明らかにしてきた成果に対して疑問点や矛盾点をクリアーにするための小さな積み上げが,極めて重要な意義を持ちます.

こうした小さな積み上げのために新たに実験をしなくてはいけませんので,その労力は相当なものです.しかしながら研究を通して確かなエビデンスを得るためには,こうした積み重ねによって自らの主張が確かに正しいことを実証することが不可欠となります.当然,たった1つの事実を主張するために,多くの時間を費やすことになります.

今回の研究紹介を通して,こうした研究の特性についてもご理解いただければ幸いです.

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