セラピストにむけた情報発信



行為の選択(アフォーダンス知覚)に及ぼす頭部拘束の影響:
Yu et al. 2011




2011年6月20日
前回に引き続き,行為の選択(アフォーダンス知覚)に関する研究の紹介です.

今回ご紹介するのは,車いす運転時の行為の選択が,頭部拘束によって不正確になることを示すことで,非常に微細な頭部の動きが正確性に重要な要因であることを示した論文です.

Yu Y et al. Influences of head and torso movement before and during affordance perception. J Mot Behav 43, 45-54, 2011.

実験対象者は若齢成人です.車いすに乗って通過できる高さを正確に判断してもらいました.車いすのヘッドレストに頭部を固定する場合とそうでない場合の判断が比較検討されました.

なお,状況判断課題に先立って,参加者は廊下を使って車いすの操作をする機会が与えられました.天井が低い場所を通ることがないので,高さの判断に直接かかわる練習経験はありませんでした.車いす自体の操作性(ダイナミクス)を経験することが,状況判断に及ぼす影響を検討しました.この練習経験も,車いすのヘッドレストに頭部を固定する場合とそうでない場合の2条件が用意されていました.

実験の結果,判断時に頭部の動きが拘束されると,判断が不正確になりました.判断時には決して頭部を大きく動かしているわけではありません.しかし,座位時にわずかに生起する頭部・体幹の動き(postural sway)が,正確な判断には必要であろうと推察されます.

興味深いことに,頭部拘束がない状況で練習経験した後で,判断時に頭部の動きが拘束されると,最も判断が不正確になることがわかりました.すなわち,練習経験時にも頭部拘束がなされていれば,わずかな練習経験の中でその状況に適応するため,頭部拘束の悪影響はそこまで大きくならないことがわかりました.

意識にのぼることがないレベルの微細な姿勢動揺が,なぜ意識的な状況判断に影響するのかについては諸説ありますが,特に前後方向に揺れる際に生じるオプティックフローなどが重要なのではないか,といった議論が好まれるように思います.


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