セラピストにむけた情報発信



身体の動きをモニタリングする介入は直後の立位姿勢動揺量を減少させる
Yasuda et al. 2012




2012年10月29日

本日ご紹介するのは,3月に本学を修了した安田和弘君(理学療法士,現早稲田大学ポスドク)の論文です.

Yasuda K, Kawasaki T, Higuchi T. (2012) Intervention of self-monitoring body movement has an immediate beneficial effect to maintain postural stability. Journal of Novel Physiotherapies.2(6), 118, doi: 10.4172/2165-7025.1000118.

本論文はopen accessジャーナルにつき,このリンクをクリックしていただければ,どなたでも論文を閲覧できます.

もともと安田君はボディワークなど,身体に関する主観を客観に近づけるような操作が,リハビリテーションに役立つのかについて研究を行ってきました.これまでの実験の結果,バランスのとりにくい片足立位課題に先駆けて,座位における足首や手首の動きをモニタリングする介入をおこなうと,その直後の姿勢動揺量が減少することを確認しています.詳細はこちらをご覧ください.

今回の研究では,これまでの研究で生じた2つの疑問点を解決するための実験を行いました.

1つ目の疑問点は,事前の介入の効果が本当にモニタリングの効果であるのか,という事です.介入条件では,モニタリングをさせずにただ足首や手首を動かしたコントロール条件よりも,課題要求に対して正確な動きができました.もしかするとこの介入の効果はこの正確な動きの効果であって,モニタリングの効果ではないという可能性がわずかにありました.

この可能性をキャンセルするために,今回の研究では事前の介入課題をイメージさせるだけで,身体は動かさない条件を加えました.もしモニタリングそのものの効果があるのならば,この介入条件の直後にも姿勢動揺量が減少するはずです.

実験の結果,仮説の通り,イメージ条件でもその直後に片足立位姿勢時の動揺量が減少することを確認しました.従って,安田君が明らかにした効果は,身体部位の状態をモニタリングすることの効果と言えそうです.

2つ目の疑問点は,なぜ手首という,立位姿勢に直接関係のない関節の動きをモニタリングするだけでも,直後の姿勢バランスに貢献するのかという点です.この問題にアプローチするために,身体部位のもう1か所,肩関節の動きのモニタリング条件も加えることにしました.もしこの条件でも,手首関節のモニタリング条件と同様の効果が出てくるならば,モニタリングさせる箇所は,立位姿勢を形作る関節なら身体のどこでもよい,という事になります.

実験の結果,肩関節のモニタリング条件であっても,直後の片足立位バランスの動揺量が減少しました.よって足関節のように立位姿勢に直接関わる関節でなくとも,モニタリングの効果がありそうです.




1回の実験でわかることには限界があります.実験を複数積み重ねることで,これまで得られたデータの信頼性を確認したり,疑問点を解決したりする必要があります.

安田君は博士論文の作成という過程を通して,こうした実験を積み重ねてきました.現在は早稲田大学の工学系の研究所にてポスドクとして研究活動を継続しています.今後もその活躍を応援・サポートしていければと思います.

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