2011年6月27日
本日ご紹介するのは,私たちの研究室に所属する博士後期課程の大学院生(理学療法士),安田和弘君が発表した研究です.
Yasuda K et al. Immediate beneficial effects of self-monitoring body movements
for upright postural stability in young healthy individuals. J Bodywork
Mov Ther, in press.
臨床場面では,姿勢制御や歩行をおこなう前に,セルフチェックとして,左右均等に荷重している感覚を意識的に感じてもらうなど,自分自身の身体状態を意識化してもらう(モニタリング)場合があるように思います.安田君は,こうしたモニタリングに実際的な効果があるのかを知るため,モニタリングの直後に測定する姿勢制御に対する波及効果を検証しました.
ここでのポイントは,姿勢制御課題の最中にその動きをモニタリングさせるのではなく,姿勢制御課題の直前に,身体の動きを意識的にモニタリングしてもらうための介入をおこなうということです.
実験では,姿勢制御に対する貢献度が高い足関節と,必ずしも貢献度が高くない手関節を対象として,ゆっくりとした動きを正確にモニターしてもらう介入をおこないました.コントロール条件として,介入条件と同じ動きをおこなうものの,計算課題とのデュアルタスクにより,意識的なモニタリングができない条件を設定しました.参加者は若齢健常成人であり,各参加者が全ての条件の前後で立位姿勢制御課題(片足・両足)をおこない,姿勢動揺量を測定しました.
実験の結果,バランスのとりにくい片足立位課題の場合には,身体の動きを意識的にモニタリングした介入条件において,その直後におこなう姿勢動揺量の減少が確認できました.コントロール条件の直後ではこうした効果は見られませんでした.
興味深いことに介入の効果は,モニタリングする身体部位が足関節の場合だけでなく,手関節の場合でも見られました. また,こうした介入の効果は,バランスのとりやすい両足立位課題では確認できませんでした.
以上の結果から,バランスのとりにくい肢位での姿勢制御については,直前に行う意識的なモニタリングの行為は,何らかのポジティブな作用を持つのではないかと結論しました.この結論に基づけば,バランス維持が困難な患者さんに対して,自分自身の身体状態を意識化してもらう介入をおこなうことには,やはり意味があるのかもしれないと期待させます.
ただし,なぜ手の動きに意識を向けるだけでも直後の姿勢動揺量が改善されたのかなど,直感的には理解しにくい結果もあり,いまだ不確定要素がある研究結果とみるべきだろうとも考えています.
安田君はもともとボディワークや太極拳のように,ゆっくりした動きの中を実施し,その中で自分の身体をモニタリングさせる活動の持つ効果に興味があり,研究をおこなってきました.太極拳などを長期に実践することによる姿勢動揺量の改善については,過去にも様々な報告があります.これに対して,安田君のように短期的に効果がみられることについての報告は,新規性が高い報告といえます.
安田君が本学の大学院に進学して5年目になります.ゆっくりとではあるものの,着々と自分の目指す研究をおこない,英語論文の発表に結び付けた姿は,後輩たちの良い手本となっています.
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