セラピストにむけた情報発信



首都大学東京オープンユニバーシティ
「知覚認知から見た身体運動」




2012年8月20日

夏季休暇等につき,しばらく更新をお休みしておりました.ここ数か月家族に迷惑をかけた分を取り戻すべく,故郷の東北にて父親業務に奮闘いたしました.



更新再開の本日は,8月6日に実施した首都大学東京オープンユニバーシティ講座の活動報告です.

今回は外部講師として,普門院診療所の理学療法士,豊田平介氏をお招きしました.豊田氏は理学療法士でありながら,生態心理学に関するしっかりとした基礎知識を有しており,臨床の現場に還元するための様々な活動を行っています.

当日の講座では,生態心理学の発想に根差した身体運動の理解とその臨床応用について,研究者としての立場とセラピストの立場からそれぞれ話題提供をしました.午前中は私が講座を担当し,生態心理学の発想や,歩行におけるオプティックフロー情報の重要性,環境との相互作用として身体運動を考えることについて紹介しました.

午後は豊田氏が担当し,「行動の調整と学習(自己身体に関して,および環境からの情報に関して)」というタイトルのもとで話題提供をされました.

大枠としての重要なメッセージは,「セラピストは運動制御を理解する必要がある.運動制御を考えるに当たっては,行為(課題)と個体と環境を三位一体で考える必要がある.」というものでした.たとえば支援患者の運動学習能力をとらえる際,単に患者自身の障害に目を向けるのではなく,その障害を持つ個人と環境とのインタラクションで特有の行為が生まれる,といった発想を持つ必要があるというのが,このメッセージに含まれる内容です.

その後,脳卒中片麻痺患者の方々を対象とした研究を中心に,具体的な臨床観察の視点を提供してくださいました.豊田氏は最近,脳性まひ児への理学療法の機会が多いということで,そうした知識も含めた発言がなされました.

豊田先生と私はいずれも,歩行中の隙間通過行動を研究対象としているということで共通しています.隙間通過行動を中心に研究している人は非常に少ないため,有益な情報交換ができる貴重な研究仲間です.

隙間通過行動そのものは,日常行為としては取るに足らない行為です.しかしその観察を通して私たちは, 歩行中に劇的に変化する身体と環境の相互作用について,様々な情報を得ることができます.今後もこの行動観察を通して運動制御を理解し,臨床応用に結びつく知識を提供したいと考えています.

今回は少人数制で様々な職種の方々が参加してくださいました.講座終了後に質疑に参加してくださった方の中には,参加の動機についてもお話ししてくださる方もいらっしゃり,どのような情報提供が期待されているのかについて,新しい視点を得ることができました.参加者の方々に深く感謝いたします.特に,数日前にお世話になったばかりである,亀田総合病院の清水一生氏には,連日の参加に感謝申し上げます.

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