セラピストにむけた情報発信



Human Movement研究会@札幌医科大学




2012年2月6日

2月3日に,札幌医科大学にてHuman Movement研究会が開催されました.この研究会は,長崎浩先生とその門下生の先生方を中心に構成される研究会です.環境の知覚や,運動イメージや注意などの認知的活動に主眼を置いた研究発表が多いことが特徴です.過去の研究会についてはこちらをご覧ください.


この研究会は,どちらかといえば若手育成の意図があります.大学院になりたての方々が発表をし,それに対して経験豊かな先生方がコメントをする,といったスタイルで進行されます.

今年は講演のセクションがありました.講師は札幌医科大学の金子文成先生であり,「運動イメージの生成とリハビリテーションへの応用:能動的運動の近くに関する研究から」というタイトルでご発表をされました.短時間の話題提供でありましたが,私にとってはインパクトのある内容でありました.

金子先生は運動に関連する視覚映像(たとえば指先や手首を動かしている映像)を提供し,その際にあたかも自分がその運動をしているかのような錯覚が生じる現象に着目しています.この現象は自己運動錯覚と呼ばれます.

金子先生は過去に,この自己運動錯覚が生じる状況において大脳皮質一次運動野をTMSにより刺激すると,運動誘発電位が高くなるといったことをご報告されています.すなわち,自己運動錯覚を生じるほどのインパクトがある視覚映像であれば,それは運動のリハビリテーションにも有効かもしれない,ということを示唆したわけです.

最近の研究としてご紹介されたのは,自己運動錯覚の誘発には健常者であっても一定の訓練が必要かもしれないということです.事例として示されたケースでは,映像を見て即座に自己運動錯覚が生じる,すなわち自分の運動をイメージできるようになるまでには,1日30分の映像観察として7日間の訓練をおこなう必要がありました.

このように考えると,運動の映像,もしくはミラーセラピー(鏡療法)のように鏡に映る視覚映像は,ただ単にそれを見せれば誰でも運動のリハビリに有効というわけではなく,対象者がその映像を自分の動きとして自覚できて初めて有効となるのだ,ということなのかもしれません.すなわち,どのような対象者であれ,視覚映像の導入には事前に最低限の訓練を行い,自己運動錯覚を引き出せるようにしておく必要があるものと思います.



研究会では,本学の研究生である安田真章君(PT)が発表をしました.発表タイトルは「隙間通過時の状況判断能力を向上させるための介入方略の検討:直接経験の有効性」でした.

安田君にとって,公式な場で口頭発表をするのはこれが初めてでありました.発表の5日前は,まだ原稿を読みながらでしか説明できないレベルでありましたが,直前まで最善の努力を尽くした結果,当日は時おり聴衆の方々に視線を向けながら,また手振りを加えながらプレゼンをするまでに仕上げてくれました.

細かいことを言えばいろいろと課題はあるものの,本人にとっては非常に高いハードルを,寝る時間を惜しんで準備し,立派に口頭発表をこなしている姿を見て,嬉しく思いました.志ある人たちのこうした成長の過程を見守ることができるのは,大学人としての喜びの1つであります.


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