セラピストにむけた情報発信



脳卒中患者を対象とした長期間の運動観察のリハビリ効果:
Ertelt et al. 2007




2012年2月3日

前回に引き続き,運動観察の効果に関する論文です.今回の論文では,脳卒中患者のリハビリテーションプログラムの一環として,運動観察のプログラムを導入した場合の効果を報告しています.

Ertelt D. et al. Action observation has a positive impact on rehabilitation of motor deficits after stroke. Neuroimage 36, T164-173, 2007

実際のリハビリテーションの中に運動観察のプログラムを導入する手法は,しばしばaction observation therapyと呼ばれます.日本語では運動観察療法などと訳されます(actionという単語自体は,学術的には行為と訳したほうが,実際の言葉が持つ意味を適切に表現しているように思います.)

今回ご紹介した研究では,病院にてリハビリをされている8名の脳卒中患者を対象としました.

通常のPTに加えて,運動観察のプログラムを4週にわたって導入した場合の効果を検討しました(観察群).比較対象者(コントロール群)は,年齢や性別をある程度考慮した脳卒中患者8名であり,観察群の患者と同じPTを受けています.

運動観察のプログラムの中では,様々な日常行為のビデオ映像を6分間観察し,観察終了後にその動作を6分にわたって患側の腕を使って実践しました.

ビデオ映像の種類は全部で54種類ありました. 4週間のプログラムの中で18日間のリハビリが組まれ,1日につき3種類の映像を観察して実践する,ということを繰り返しました.たった3種類の映像の観察とはいえ,このプログラム全体の所要時間は90分でしたので,患者さんにとってはかなりの集中力を要する,心的に負担の高いプログラムといえます.

運動観察のプログラム終了後の患側の腕の機能を,Wolf Motor Function Testといった,標準化されたテストにより評価したところ,その機能はプログラム実施前に比べて有意に改善していることがわかりました.こうした改善効果はコントロール群には見られなかったことから,ここで得られた効果は運動観察の効果であって,単なる通常のPTによるものではないといえます.

またこの論文では,観察群の参加者が,様々な物体を操作している最中の脳活動をfMRIで測定した結果についても報告しています.

その結果,大脳皮質における運動関連領域である,運動前野や上側頭回,補足運動野の活動が,プログラム実践前に比べて有意に高くなっていることがわかりました.これらの結果から著者らは,運動観察のプログラムは大脳皮質における運動関連領域の可塑的な変化をもたらすのだと主張しました.

こうした報告は,運動の観察を臨床の中でどのように導入していくべきかを具体的に考える上で,大変参考になります.一方,運動観察を中心として90分にもわたるプログラムを組み,それをかなりの高頻度で1カ月も持続させるというのは,専門的病院の入院患者など,限られた 対象にしか適用できないのではないかとも思います.

より簡便な方法においても効果が期待されるのか,といったことに対する継続的検討が,引き続き必要であろうと感じました.

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