セラピストにむけた情報発信



Senstyle主催歩行フォーラム@神戸セッション



2011年12月11日

11月26-27日に,Senstyle主催歩行フォーラム@神戸セッションが開催されました.

この歩行フォーラムは,先週開催された歩行フォーラム@本学南大沢キャンパスとほぼ同一のイベントでしたが,一部の講師陣に変更がありました.本日は神戸セッションのみでご講演なさった先生として,九州看護福祉大学の加藤浩先生のご発表の一部についてご紹介します.

加藤先生は「多関節運動連鎖の視点からとらえた,股関節疾患患者の歩行特性」というタイトルのもと,2時間30分にわたるご発表をなさいました.

運動連鎖(Kinetic Chain)とは,ある関節で運動が起きると,その運動の影響が連鎖して隣接関節まで波及する現象のことをいいます.講演ではまず,姿勢保持時や歩行時にどのような姿勢をすればどのような運動連鎖が生じるかを詳細に解説してくださいました.

様々な話題提供の中で個人的に最も印象深かったのは,「筋の収縮連鎖」という現象です.

筋の収縮連鎖は,ある一部の筋肉を収縮させることが,隣接する筋群の活動に(悪)影響を及ぼすという現象です.たとえば,手で力こぶしを握った状態だと,そうでない状況に比べて肩周辺の筋肉が極端に動かしにくくなります.この肩の収縮連鎖に関するわかりやすい事例として加藤先生は,陸上短距離選手が力んでこぶしを握った瞬間に減速してしまったケースや,ボクシングで超高速パンチ(単位時間あたりに多くのパンチを繰り出せること)ができる長谷川穂積選手の場合,パンチを繰り出す際にこぶしを開いているといった事例を紹介してくださいました.

また加藤先生ご自身が測定されたデータとして,閉眼歩行時にガムを右側で噛むか左側で噛むかを操作するだけで,ガムを噛んでいる側に歩行軌道が大きく逸脱していく現象を見せてくださいました.こうしたデータに基づき加藤先生は,杖を突いて歩行される患者さんの中で,杖をぎゅっと握って歩く方については,この握りを開放してあげる介入をしないと,収縮連鎖がもたらす負の影響が歩行に生じるというメッセージを出されていました.このメッセージについては,先週ご紹介した大槻先生のコメントとも一致するものでした.

これらの先行情報を踏まえて加藤先生は,主たるご関心である股関節疾患患者さんの場合,二関節筋肉である股関節筋の過剰収縮が問題で,負の連鎖あるいは痛みや障害の誘発が起きているので,こうした問題を改善するようなアプローチをしていかなければいけないということを解説されていました.

東京における歩行フォーラムの中でご紹介した大槻先生のご発表の中には,次のようなコメントがありました.「筋・骨格系の問題を治療する際には,背景となる姿勢・運動制御を考慮し,姿勢・運動制御の問題を治療している時は,筋・骨格の問題系の問題を考えること.」

私たちの研究室では姿勢・運動制御の問題を心理学・認知科学の視点から研究しています.大槻先生ご指摘の通り,こうした研究を遂行するに当たっては,筋骨格系の問題を考える必要があるわけですが,実際のところ,そうした情報収集を行う機会は決して多くありません.加藤先生のお話は,運動連鎖という筋骨格系の重要な問題をわかりやすく解説してくださるものであり,大変勉強になりました.

会場である兵庫医療大学は,神戸港に隣接する絶好のロケーションです.,快晴時に見る景色はまさに絶景でありました.講演終了後には夕焼けとともにライトアップされていく神戸の市街地を楽しむことができ,しばし仕事のことを忘れて景色を楽しみました.
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