セラピストにむけた情報発信



Senstyle主催,歩行フォーラム@首都大学東京




2011年11月21日

11月19-20日に,本学南大沢キャンパスにて,Senstyle主催の歩行フォーラムが開催されました

本日は,今回初めて拝聴させていただいた2名の先生の講演内容について,
簡単にご紹介させていただきます.

上伊那生協病院の大槻利夫先生は,「脳神経科学に基づく脳卒中患者の歩行と治療について」というタイトルのもと,講演をされました.講演の前半では,運動学習に関わる様々な理論を引き合いに出されながら,それが具体的に臨床にどのように関連付けられるべきかという点について,解説がなされました.後半では,前半の解説に基づいて具体的に患者さんにアプローチする実技がご紹介されました.

個人的に勉強になったのは,大槻先生の以下のようなご指摘です.
  • 筋・骨格系の問題を治療する際には,背景となる姿勢・運動制御を考慮し,姿勢・運動制御の問題を治療している時は,筋・骨格の問題系の問題を考えること.
  • 患者さんを動かすことで脳内の身体図式を変えるような取り組みが望ましいこと.
  • 非麻痺側下肢を一歩出せるようにするのが大切な治療目標であること.

誠愛リハビリテーション病院の坂口重樹先生は,「脳卒中片麻痺患者の適応的歩行の再建」というタイトルのもと,講演をされました.“適応的歩行”というキーワードは,私自身の研究においても重要なキーワードであります.実際,坂口先生のお話の中には,私自身が考えていること,かなりの共通性が見られました.

前半の理論的解説の中で坂口先生は,歩行制御の重要な性質として,頑健性(Robustness,システムの損傷などの変化に対して機能を維持する能力),安定性(Stability,外乱に対してバランスを保つ),適応性(adaptability,環境の変化に対応して適切な技能を発現するための能力)の3つをあげました.

こうした歩行制御をリハビリテーションの中で再学習させていく過程として,以下の3つの観点に基づく治療をされているそうです.
  • 歩行の要素となる治療(筋緊張と反射の調整,立位バランス機能の回復など)
  • 歩行周期における治療(各周期ごとの筋骨格系の活動の回復)
  • 適応的歩行(またぎ動作や上肢動作を伴った歩行,具体的社会環境場面での歩行など)

特に3つ目の適応的歩行の治療については,私自身が研究に基づき重要と考えていることと完全に一致するものであり,大変うれしく思いました.

誠愛リハビリテーション病院さんには,非常に充実した動作解析環境があります.坂口先生はじめ多くのスタッフの皆様が,動作解析に基づく臨床観察や治療方略の立案をおこなっているということで,その具体例が紹介されました.

測定したデータに対して,坂口先生ご自身がどのようなことを考えたかについて,最終的な決断に至るまでの様々な思考過程も含めて具体的に説明してくださったことで,臨場感ある形で話を理解することができました.

なお坂口先生のご発表内容については,以下の論文が参考になります.

林克樹・坂口重樹.脳卒中患者の歩行障害のリハビリテーション.Brain and Nerve63,1239-1251, 2010


(メインページへ戻る)