セラピストにむけた情報発信



隙間の通り抜け行動がタイトな服の着用時に正確になる可能性
Lopresti-Goodman et al. 2010



2011年11月14日
パーキンソン病患者や脳卒中片麻痺患者を対象とした研究において,狭い隙間を通り抜ける際に,隙間の狭さに過剰に対応してしまい,スムーズな行動ができないという報告があります.隙間通過の場面に限らず,環境と身体の関係を正確に知覚して最適な行為を選択できない患者に対して,どのような介入をすればよいのかを考えることは,リハビリテーションにおいても重要な問題の1つです.

本日ご紹介するのは,タイトなストレッチ素材の服を着用して身体に対する意識を高めることが,その方法の1つとして有効かもしれないということを,健常者を対象として実証した研究です.ただしこの効果は男性にのみ有効であったということが,注目ポイントです.

Lopresti-Goodman S. et al. 2010 The influence of heightened body-awareness on walking through apertures. Applied cognitive psychology

男女それぞれ31名の大学生が実験に参加しました.長さ60cmの水平棒を両手で持ち,胸の高さで保持した状態で,狭い隙間を通過してもらいました.

服装は,タイトなストレッチ素材の服を着た場合と,ルーズなジャージを着た場合の2条件でした.水平棒を持ったことで,ここでの判断で求められるのは水平棒と隙間との空間関係であり,身体幅自体は影響しません.著者らはあえてこうした状況の中で,タイトな服を着ることによって身体幅に意識が向くことの意味を検討しました.

その結果,男性参加者については,タイトな服を着た場合のほうがジャージを着た場合に比べて,接触が起きるギリギリの幅まで肩を回旋せずに隙間を通過することがわかりました.女性参加者の場合,そもそもジャージを着ているときの判断が正確であったため,タイトな服を着たことの影響は確認できませんでした.

女性参加者に対して服装の影響が出なかったことについて,著者らは,そもそも女性は身体に対する意識が高いため,日常的にこうした効果が反映されているためではないかとしています.

タイトな服を着ることでいわゆるボディコンシャスな状況を作り,それが環境と身体の空間関係の知覚にも波及するという結果は,決して多くの類似報告があるわけではありませんが,面白い発想だなと思いました.ただし理論的には,身体に関する意識的な知覚の側面と,運動行為に利用される身体性情報の知覚の側面とは完全には一致しないと考えられています.従ってどのようなプロセスで,身体に関する意識を高めることの効果が得られるのかについては,もう少し長いスパンでの研究が必要と思います.

入院患者さんを対象とするリハビリテーションの場合,着衣の容易なジャージ等で訓練をすることも少なくないと推察します.服装の効果は比較的容易に検証可能ですので,試してみる価値があるのかもしれません.


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