セラピストにむけた情報発信



パーキンソン病患者の歩行:通路の補助線による歩行改善の効果に関する一考察
Lebold & Almeida 2011




2011年9月12日
パーキンソン病患者の歩容が,通路に補助線を引くなど,視覚情報を付加することで改善されうることが知られています.今回ご紹介するのは,こうした視覚情報の効果は,下肢への視覚的注意を促すための手がかり(cue)としての効果なのではないか,という結果を報告した論文です.

Lebold CA & Almeida QJ An evaluation of mechanisms underlying the influence of step cues on gait in Parkinson’s disease. J Clin Neurosci 18, 798-802, 2011.

参加者は22名のパーキンソン患者(平均年齢約70歳)と,年齢をそろえた健常高齢者11名です.この研究では,いわゆる“すくみ足(Freezing of Gait)”の症状を呈していない患者さんを対象に,投薬後1時間に実験を行っています.

参加者は4つの歩行条件のもとで直線歩行をおこない,その際の歩幅や歩行速度が測定されました.1つ目は特に情報を付加しないコントロール条件,2つ目は通路に65㎝感覚で白線を引く白線条件,3つ目は腰付近に取り付けたレーザーポインターから,1歩先付近の通路にレーザーを照射する条件(レーザー条件),4つ目は部屋を暗くした状態でレーザーを照射する条件です(暗室レーザー条件).暗室にする意図は,自分自身の下肢の視覚情報が歩行中に利用できなくなることを意図しています.

実験の結果,白線条件とレーザー条件ではコントロール条件に比べて,広い歩幅で歩くことができました.これに対して,暗室レーザー条件では,コントロール条件との間に差が見られませんでした.

著者は暗室条件でレーザー照射の効果が消失したという結果を踏まえて,通路に視覚情報を付加することで歩容に一部改善が見られたのは,下肢に対する視覚的注意を促す役割を果たしたからではないかと主張しました.確かにパーキンソン患者において,下肢の体性感覚情報が歩行に利用しにくいことが予想されますので,こうした結論には意味があるように思います.

ただし部屋を暗室にした場合,下肢の視覚情報以外の視覚情報も利用できないことになるため,本当に下肢に対する視覚的注意が問題なのかについては,さらなる実証が必要なようにも思います.

なお,歩行における下肢の視覚情報の重要性については,本学大学院を修了した吉田啓晃氏が,脳卒中片麻痺患者においてもその可能性を指摘したばかりです.もしかすると,歩行を自動的・周期的に制御することに障害があり,1歩1歩の動きを顕在的に制御する特性を持つ患者さんには共通して,下肢の視覚情報が歩行の調整に必要なのかもしれないなと感じた次第です.

なお,すくみ足の問題については過去のページにも紹介していますので,合わせてご参照ください.


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