セラピストにむけた情報発信



2人で通り抜ける幅の知覚: Davis et al. 2010




2011年7月21日
今回も協同行為に関する研究の紹介です.今回のトピックスは,狭い隙間を2人で通り抜ける際の知覚判断です.前回と同様,シンシナティ大学のグループによる報告です.

Davis TJ et al. Perceiving affordances for joint actions. Perception 39, 1624-1644, 2010

私たちが1人で狭い隙間を通り抜ける際には,およそ肩幅の1.3倍よりも狭い場合には,肩の回旋をするなどの対処行動をします(私の実験経験上,少なくとも日本人参加者の場合には,肩幅の1.2倍程度がクリティカルポイントです).

この論文がまず報告したのは, 2人が横並びで隙間を通り抜けるときにも,「 2人の肩幅の総和」の1.3倍の値がクリティカルポイントとなるのかに関する検証です.2人が横並びの場合,「 2人の肩幅の総和」の1.13倍が,肩を回すかどうかのクリティカルポイントとなりました.この値は,実験参加者が単独で隙間を通過した場合の判断(肩幅の1.22倍)よりも有意に狭い結果でした.

この結果から,2人が横並びに通り抜けるときには,単独の場合とは異なる方略を取っていることがわかります.おそらく,他者との間にとる空間マージンが,ドアとの間にとるマージンよりも狭いため,こうした結果になるのだろうと推察されます(残念ながら動作解析がなされていないため,詳細は不明です).

続く3つの実験では,2人が横並びに通り抜けられる幅について,遠くから観察した場合の知覚判断の特性について検討されました.

こうした検討からわかったことは,2人横並びで通り抜ける幅の判断は,実際に必要な幅よりも過小評価傾向になることです.2人の肩幅の総和の0.97倍の隙間が,クリティカルポイントとなりました.これは,個人に対する判断(肩幅の約1.15倍)よりも明らかに低くなりました.

この結果については,一方では他者の行為能力を正確に知覚するのが難しいという解釈となるでしょう.しかし一方では,車いす走行時(Higuchi et al. 2004)や横長のバーを持っての歩行時(Wagman & Taylor, 2005)でも過小評価傾向が顕著であったことから,自分の身体幅よりもの非常に幅の広い対象についての共通則と解釈することもできます.どちらの解釈が正しいのかについては,残念ながら現時点の情報では結論付けることができません.

また,隙間を設置していない廊下を使って他者と横並びで歩く経験をしたり,他者が歩くのを観察したりする経験が,知覚判断を向上させるかについての検討がなされました.残念ながら,こうした経験は知覚判断の成績を一切向上させませんでした.この結果は,前回紹介した関連研究とは異なる知見です.

このほか,観察時の視点の高さが判断の成績に影響することや,自分が横並びに歩く他者の1人として判断しても,2人の他者の通過を観察する立場として判断しても,成績に変化がないことなどが報告されています.

他者の身体幅の情報については,顕在的なレベルでそれが何センチかといった知識はなくても,実際の通過行為時や隙間通過の知覚判断時には,ある一定の精度で利用できるということが,この論文が伝える一つのメッセージと思います.

参考文献
Higuchi, T. et al. Visual estimation ofspatial requirements for locomotion in novice wheelchair users. Journal of Experimental Psychology: Applied, 10, 55-66. 2004

Wagman JB & Taylor KR. Perceiving affordances for aperture crossing for the person-plus-object system. Ecological Psychology 17; 105-130, 2005



(メインページへ戻る)