セラピストにむけた情報発信



複雑な路面を歩行する際の着地の精度と転倒:Yamada et al. 2011




2011年4月11日

本日ご紹介するのは,京都大学の山田実氏と共同で発表した最新論文です.

Yamada M, Higuchi T et.el. Measurements of stepping accuracy in a multi-target stepping task as a potential indicator of fall risk in elderly individuals. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 66, 994-1000, 2013

山田氏は,高齢者における歩行中の転倒予防に関して非常に多岐にわたる仕事をしています.その中でも,特にデュアルタスク条件下での歩行能力に関する研究成果は目覚ましく,実践的に役立つ様々な成果を残しています.

今回山田氏が着目したのは,転倒歴のある高齢者が,厳格な着地位置が求められる歩行通路上で,正しい位置に着地できないという現象です.山田氏は,歩行中の着地能力を正確に,しかも簡便に測定できるテストを開発し,新たな転倒予測因子として利用しようと試みました.

様々な検討を経て開発されたテストが,Mutli-Target Stepping Test (通称,MTST)です.このテストでは,10mの歩行通路に3×15列の四角ターゲットが付置されています.各列のターゲットは白,黄,赤の3色構成です.そのうちの1色がステップのためのターゲット,別の2色が,ステップしてはいけないディストラクターです.山田氏は120名の高齢者を対象に,転倒リスクの高低で2群に分けたうえで,MTSTの精度を測定しました.

このテストが信頼性の高い転倒予測因子として成り立つための最低条件として,転倒リスクの高い高齢者におけるMTSTの成績が,転倒リスクの低い高齢者に比べて有意に高くなることを示す必要があります.

実験の結果,転倒リスクの高い高齢者グループにおいて,実に60%以上の参加者が,15このターゲットのうち最低一つを踏み外すことがわかりました.これは転倒リスクの低いグループの成績(25%)に比べて,非常に高い頻度でした.私たちはこの踏み外しをstepping failureと名付け,転倒リスクの高い高齢者を識別する重要な指標と位置づけました.

この他にも,転倒リスクの高い高齢者がMTSTをおこなった場合の様々な特性が明らかになりましたが,その詳細はぜひ本文をご覧ください.

山田氏とはこれで3つ目の論文を共同発表したことになります(過去の論文についてはこちらをご覧ください).

毎回,山田氏から報告を受けるデータから,非常に多くのことを学んでいます.今回のデータは,歩行の視覚運動制御に関する加齢変化を,簡便な形で測定し,その問題を明らかにしたものであります.実践的な応用可能性もさることながら,基礎科学の見地からも様々な情報を提供してくれていると感じています.


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