セラピストにむけた情報発信



【成果報告】脳卒中片麻痺者の方向転換動作:‘Reactive’ turnの特性
(Nakamura et al. in press)




2019年1月28日
医療法人敬愛会 リハビリテーション天草病院の理学療法士,中村高仁氏が,脳卒中片麻痺者の方向転換動作に関する論文を発表しました。私も成果発表に向けて一部お手伝いをいたしましたので,成果報告としてその概要を紹介します。

Nakamura T, Higuchi T, et al. Slower Reorientation of Trunk for Reactive Turning while Walking in Hemiparesis Stroke Patients. J Motor Behav, in press

脳卒中片麻痺者の方向転換動作を扱った研究自体は,比較的多くあります。TUGを用いた研究や,往復歩行(180度方向転換)を対象とした研究がその代表です。TUGの場合,①どこでターンをするか,そして②どの方向にターンするかが事前に決まっています。つまり対象者は,事前にある程度プランニングをした上で方向転換をします。こうした方向転換は’pre-planned’ turnと呼ぶことができます。

これに対して,事前の予測ができない中での方向転換は,‘Reactive’ turnと呼ぶことができます。先行研究では,上の段落で指摘した「②どの方向にターンするか」について事前に予測できない影響が既に検討されています。これに対し中村氏の研究では,「①どこでターンをするか,そして②どの方向にターンするか」の両者について予測できない実験設定を作りました。つまり①の影響も検討できる点が,中村研究のオリジナリティでした。

実験には脳卒中片麻痺者11名,および比較対象となる高齢者20名が参加しました。片麻痺者11名の方々は,発症後6カ月未満での測定ながら,歩行速度が1.0m/秒程度あるということで,運動機能が高い集団であるといえます。

実験で着目したのは,方向転換時の頭部と体幹部の連動性でした。一般に,方向転換時は視線⇒頭部⇒体幹部という時間順序で規則的に回旋が見られます。つまり,これらの連動した動きがスムーズな方向転換を生み出していると考えられています。脳卒中片麻痺者については,この規則性に関する結果が一貫していませんでした。

実験の結果,時間順序という意味では,脳卒中片麻痺者には頭部と体幹部の連動性が見られました。しかしながら,体幹部の回旋だけは高齢者に比べて統計的に有意に遅くなることがわかりました。すなわち,方向転換時に体幹の回旋が遅れ気味になることが,脳卒中片麻痺者の特徴でした。

中村氏は体幹の回旋が遅れ気味になる現象について2つの解釈を提示しました。第1の解釈は,運動機能低下の結果として起こる現象という解釈です。運動麻痺を有する状態では素早く回旋するという要求にこたえるのに限界があるため,頭部に比べて体幹の回旋が遅れてしまう可能性があります。

第2の解釈は,安定した回旋ができるための“時間稼ぎ”をしているという解釈です。立脚側に方向転換をする場合,多くの対象者はクロスオーバー(脚が交差するように接地する)をさせます。この場合,クロスオーバーした後の接地位置はバランス維持に極めて重要です。この設置位置まで含めて十分なプランニングをするために,時間をかけて回旋をしている可能性を指摘しました。実験参加者の多くが,歩行速度の観点から見てかなり高機能であったことを考えると,第2の解釈が正しい可能性も十分あるなと,個人的には感じています。

臨床のプロフェッショナルの方々とのコラボレーションでは,大いなる刺激をもらいます。今回も様々なことを学ぶ良い機会になりました。


(メインページへ戻る)