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練習は裏切らない:バスケットボールフリースロー成功率に見る
運動の記憶の性質(Keetch et al 2005 & 2008)





2018年10月29日
バスケットボール選手は,高確率でフリースローを決めることができます。しかし距離や位置などの条件をわずかに変えてフリースローをおこなってもらうと,成功率は必ずしも高確率ではなくなるようです。つまり,何度も練習した条件下のシュートのみが特異的に成績が良く,類似のシュートに汎化されない性質があると考えられます。

今回は,フリースローを題材として,運動の記憶の性質について記述した,Katherine M Keetch氏の報告を紹介します。

Keetch KM et al Especial skills: their emergence with massive amounts of practice. J Exp Psychol Hum Percept Perform 31, 970-978, 2005
Keetch KM et al Especial skills: specificity embedded within generality. J Sport Exerc Psychol 30,723-736,2008

Keetch氏らはバスケットボール選手におけるフリースローのようなスキルを,“especial skill”と名付けました。特定の条件でだけ繰り返し練習している“特別なスキル”といったネーミングです。(同じ現象は,学習の特異性,specificity of learningという言葉でも説明されています)

彼らはバスケットボール熟練者を対象に,距離を変えたフリースローに取り組んでもらいました。全体としてみれば,フリースローの成功率は距離に対応しました。つまり,シュートする位置がゴールから近ければ成功率が高く,遠ければ成功率が低くなりました。

ところが,通常のフリースロー位置からの成功率は,距離との関係から予測できる成功率よりもはるかに高い確率で,フリースローを成功させました。やはり通常の位置からのフリースローは,選手にとって特別といえます。

フリースローの代わりにジャンプショットに変えた場合,通常のフリースロー位置での成功率が特別に高くなることはありませんでした。ジャンプショットは特定の位置からだけ打つ,という状況にないため,フリースローのような結果にはならなかったと考えられます。

今後は距離を変えずに位置を変えてみました。するとここでも,通常のフリースローの位置の成功率だけが高くなりました。 距離が変わらなければ,力の調節という意味では同じショットのように感じます。しかし実際には,通常の場所でシュートする時だけ,シュート成功率が大きく変わりました。

これらの結果から,Keetch氏らは運動の記憶には視覚的文脈が加味されているのではないかと解釈しました。繰り返し練習したスキルが,単に動作単独で記憶されているのではなく,練習した視環境との関係で学習される部分があるため,状況が異なる場面では練習効果が発揮されない,というものです。

鹿屋体育大学の大学院生,山本健太氏に論文の存在をご紹介いただきました。ここに記して感謝いたします。

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