セラピストにむけた情報発信



ライトタッチを活用した動作向上に関するレビュー論文
(大下,他 2018)





2018年10月1日
立位姿勢を保持する際に,身体を支えられないほどの力で何かに軽く触れるだけで姿勢動揺量が低下することが知られています。こうした効果をライトタッチの効果と言います。今回ご紹介するのは,ライトタッチがもたらす動作向上としてわかっていることをまとめた,九州共立大学の大下和茂氏らによる総説論文です。

大下和茂 他 日常生活における触覚情報を活用したヒトの動作向上について 日本生理人類学会誌 23 45-52, 2018

特に2つの情報が興味深い情報でした。

第1に,杖を用いたライトタッチに関する介入効果です。若齢成人を対象とした研究ではありますが,杖に対するライトタッチを経験した後に,閉眼片足条件での立位姿勢動揺量が減少するという報告が紹介されました。こうした効果は,杖で体重を支えた比較条件では見られませんでした。従ってこの効果は,ライトタッチがもたらす効果と考えられます。

大下氏らは,杖で自重を支えるような戦略はその場の安定性を担保し得るものの,杖に頼りすぎることによって自重支持のための能力発揮を小さくするのではないかと説明しています。

第2に,自分自身の接触でもライトタッチの効果がみられることです。当初,ライトタッチ効果の典型事例では,外界の固定物に対する接触がほとんどでした。しかし,様々な検証をしてみると,実際には柔らかいものへの接触,さらには自分自身への接触でもライトタッチ効果が見られるという報告まで登場しました。

こうなると,ライトタッチの効果は自己と環境との関係性の知覚というよりも,全身の空間関係の知覚によってもたらされると考えた方がよさそうです。

大下氏らは,介護やリハビリの場面では,介護者・セラピストの接触がライトタッチ効果として,姿勢の保持に寄与する可能性についても言及しています。ご関心がある方は,ぜひ原典をご覧ください。

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