セラピストにむけた情報発信



脳卒中患者のアフォーダンス知覚(Randerath 2018





2018年7月23日
行為の選択に関わる状況判断は,しばしばアフォーダンス知覚と呼ばれます。身体と環境の関係を瞬時に捉えて,適切な行為を選ぶことが求められます。今回紹介する研究は,脳卒中患者のアフォーダンス知覚を調べた研究です。樋口(研)の修了生,室井君の関連研究を引用してくれたことで,研究の存在にいち早く気づくことができました。

対象となった課題は,上肢の隙間通過課題です。目の前の穴に手が入るかどうかを判断する課題です。34名の脳卒中患者,および34名のコントロールが参加し,課題を行いました。

一般に,大脳の右半球は視空間情報処理,左半球は身体と環境の情報の統合(論文では運動認知,motor cognitionと表現しています)に関与します。論文では,右損傷と左損傷でどのような違いがみられるかが検討されました。

実験の結果,脳卒中患者は,損傷の左右に関わらず,コントロールの参加者に比べてアフォーダンス知覚の成績が低い(本当は手が入らない穴に対して,入ると答えてしまう)ことがわかりました。従って,行動ベースでは損傷側の影響は顕著ではありませんでした。

MRIを用いてパフォーマンス低下に関与しそうな部位を検討しましたが,ここでもどちらかといえば,左右差はわずかでした。いずれの損傷患者においても,前頭―頭頂領域が成績低下と関連していました(角回,運動前野,内側前頭回,白質帯,全障,帯状回など)。

以前から,帯状回や前障は他感覚の統合や行動の決定にも関与していることが指摘されていました。これらのことを加味し,著者らは,帯状回や前障がアフォーダンス知覚に関与しているのではないかと主張しました。

なお論文では,情報処理レベルでは左右の損傷は異なる影響を与えているはずだとして,右損傷,左損傷の違いが深く考察されています。論文全体としてはやや難解ですが,興味がある方はぜひ原文をご覧ください。




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