セラピストにむけた情報発信



“N1グランプリ”:シングルケース研究の意義
(バイオメカニズム学会誌特集号)





2018年7月9日
今回は,バイオメカニズム学会が出版している特集号にて,シングルケース研究の意義を伝えている特集号を紹介します。名づけて,“N1グランプリ:N-1研究”の意義です。井上剛伸氏(国立障害者リハビリテーションセンター)が編者の特集号です。シングルケース研究が,症例研究以外にも意義あることが,8編の総説論文でアピールされています。

バイオメカニズム研究は,J-stageでも閲覧できますが,残念ながら特集の論文は含まれていません。以下,タイトルを示しますので,興味があれば入手をご検討ください。
  • トップアスリート研究の意義:パラアスリートの脳研究を通して(中澤公孝氏)
  • 医学・リハビリテーション領域における単一症例研究の意義と位置づけ(河島則天氏)
  • 脳卒中患者を対象としたリハ機器開発におけるN=1研究の意義(岩田浩康氏)
  • 人と人型ロボットの運動制御研究におけるN=1研究の大切さ(杉原知道氏)
  • コミュニティを舞台としたアクションリサーチの可能性(永嶋洋介氏)
  • 遺伝子組み換え動物研究とN=1研究(永富良一氏)
  • 集団を対象とする疫学研究とN=1研究(門間陽樹氏)
  • スポーツ科学における個人差を生かした統計モデル(高橋信二氏)

個人差の大きい集団を対象とする臨床研究では,1症例を対する症例研究(シングルケース研究)は有意義な研究方法です。確かに,1サンプルの標本から得られた結果から母集団を推測することには,限界があります。しかし,だからといって無理をしてサンプル数を増やしても,分散が極めて大きいデータでは,自分の仮説が支持される可能性は低くなります。分散を抑えるために均質性を保とうとすれば,今度はサンプル数が少なくなり,やはり自分の仮説が支持される可能性が低くなります。従って,稀な症例についてはむしろその1名を対象とし,“比較”の概念をうまく評価に取り入れることで,実験法に基づく研究に類する議論をおこなうほうが有意義ともいえます。

特集号の論文を通して,シングルケース研究の意義に改めて着目してはいかがでしょうか。


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