セラピストにむけた情報発信



視覚情報の制限により手の頭の協調関係を変える:
ゴルフパッティングの場合(Gonzalez et al. 2012)



2017年12月11日
今回ご紹介するのは,ゴルフ初心者を対象に,パッティング動作における視覚情報制限の影響を検討した研究です。

表面的に見れば,この研究は視覚情報の重要性に着目した研究です。しかし,実際に著者たちが着目しているのは,パッティング時の手と頭の協調関係です。パッティング時に利用できる視覚情報を操作することで,両者の協調関係を理想的な状況へと変化させ,パフォーマンスを上げることができるかに着目しています。

Gonzalez DA et al., Effects of vision on head-putter coordination in golf. Motor Control 16, 371-385, 2012

著者たちは,これまでパッティング動作に関する一連の研究を通して,熟練者と初心者の間には,手と頭の協調関係に違いがあることを発見しました。

初心者の場合,手と頭が常に同じ方向に動く傾向があります。つまり,初期動作としてバックスイングをすれば(手とパターが後ろ方向に動けば),それにつられるように,頭部も後ろを向くという動きです。制御の観点から言えば,2つの部位を同一方向に動かす制御は,比較的シンプルな制御であり,初心者がそうした行動をとるのは理解できます。

これに対して熟練者の場合,手と頭の動きは独立して動く傾向があります。バックスウィングの際も,頭は動かないか,むしろ前方向に動きます。著者らはこれが,重要なターゲット(ボールもしくはカップ)を視覚的にとらえるための有益な戦略であり,パッティングのパフォーマンスを支えていると解釈しています。

そこで著者たちは,初心者を熟練者の手と頭の協調関係に導く手段として,視覚情報を制限してみることにしました。事前に視覚制限なしで距離感などを把握してもらった後,「ボールだけが見える条件」や「カップだけが見える条件」でパッティングをしてもらいました。

視覚制限がない条件と手と頭の協調関係を比べた結果,著者らの予想通り,ボールだけ,もしくはカップだけが見える条件では,頭が手の動きと比べてやや独立して動く傾向となることがわかりました。この傾向は特に,ボールだけが見える条件で顕著でした。

ただし,パッティングのパフォーマンスは必ずしもそれに応じて向上するわけではありませんでした。特にカップだけが見える条件では,むしろパフォーマンスが低下してしまいました。著者らは,手と頭の協調関係の変化がパフォーマンスに結びつくためには,もう少し多くの練習量が必要なのではないかと解釈しています。

今回の対象はゴルフのパッティング動作に限定されたものです。しかし,視覚情報の制限により頭(つまり視対象を見るために制御すべき対象)とそれ以外の部位との協調関係を操作するという発想は,リハビリテーションにも応用可能なアイディアといえます。
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