セラピストにむけた情報発信



スポーツ経験と立位姿勢動揺量:システマティックレビュー
(Kiers et al. 2013)




2017年11月20日
あらゆるスポーツ競技において,高度なバランス能力が優れたパフォーマンスに求められます。こうした点から,スポーツ競技者が単純な立位姿勢においても動揺量を低くコントロールできるのかについて,様々な検討がなされてきました。

今回ご紹介するのは,システマティックレビューという方法を通して,そうした研究報告を概観した報告です。

Kiers H et al. A systematic review of the relationship between physical activities in sports or daily life and postural sway in upright stance. Sports Med 43,1171-1189,2013

このレビューでは,2012年までに報告された研究のうち,両足・片足立位時の足圧中心(COP)を測定している研究に限定して,スポーツ競技者を対象とした研究を検索し,目的にフィットする39の論文を選定しました。

この39の論文で対象となったスポーツ競技者の専門種目は,射撃,サッカー,ダンス,体操競技,太極拳,柔道,サーフィンなどでした。

全体を概観すると,次のような結果が得られました。

・スポーツ競技者は,長期のスポーツ経験がない一般対象者に比べて,姿勢動揺量が少ない。特に競技レベルが高い場合に,その傾向が顕著である。

・両足立位で視覚が利用できる場合(比較的簡単な立位バランス課題の場合),必ずしもスポーツ競技者の優れた特性が顕在化されない場合がある。

・スポーツ種目によって,視覚情報が利用できないことの影響が異なる印象がある。ダンスや柔道の選手は,視覚が利用できない条件下ではむしろ一般参加者よりも姿勢動揺量が大きいという報告すらある。

最後の指摘である,「スポーツ種目によって,視覚情報が利用できないことの影響が異なる」ことについて,著者らは,バランスを維持するために利用する感覚情報(視覚,体性感覚,前庭感覚)の重みづけが,スポーツ種目によって異なるからではないかと指摘しています。

今回レビューされた論文では,COPの移動量が小さいほどバランスが良い,という暗黙の前提の下で研究がなされています。しかし実際には,ある一定の範囲内であればむしろ,揺れながらバランスを制御するという側面があります。つまり,COPの移動量が小さいとバランスが悪いとは,必ずしも言えないのです。こうした点から著者らは,移動量の大小以外の側面,例えば揺らぎの規則性といった側面からの解析(非線形の解析と呼ばれます)に基づく研究が必要であろうと指摘しています。


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