セラピストにむけた情報発信



サッカー選手の段差またぎ動作(Bijman et al. 2016)




2017年9月4日
熟練したサッカー選手は,ドリブルの際に足元を見ずにボールをコントロールすることができます。すなわち彼らは,視覚に頼らずとも,下肢を正確にコントロールできるといえます。

では,サッカー選手は段差またぎのような日常生活動作においても,視覚に頼らずにまたぎ動作を正確にコントロールできるのでしょうか。今回ご紹介するのは,そうした疑問を実験的に検証した研究です。

Bijman, M. P. How does visual manipulation affect obstacle avoidance strategies used by athletes? J Sports Med 34, 915-922, 2016

大学レベルのサッカー選手を対象に,障害物をまたぐ動作の三次元動作解析をおこないました。

この研究では,段差またぎの際の視覚利用に関して2つの検証ポイントがありました。第1のポイントは,後続脚(あとで段差をまたぐ脚)の制御です。段差をまたぐ際,視線の先は段差よりもずっと先にありますので,後続脚が段差をまたぐ際には,視覚情報は障害物回避にほとんど寄与していないと考えられています。

この第1のポイントについて,サッカー選手は比較対象の参加者に比べて,後続脚の足のあげ方が小さいことがわかりました。つまり選手たちは,段差との足との間の空間マージンが狭くとっていることになります。著者たちは,視覚が利用できない状況での下肢制御に対する自信の表れであろうと解釈しています。

視覚利用に関する第2のポイントは,段差をまたぐ前の視覚情報を遮断することでした。実験の結果,予想に反して,サッカー選手と比較対象の参加者の間で,視覚情報遮断の影響に違いは見られませんでした。おそらく,サッカー選手であっても,段差にアプローチするまでの視覚情報を有効利用して,段差をまたぐ際の下肢動作をコントロールしているのだろうと考えられます。

今回の実験結果は,「熟練したスポーツ選手の卓越性は,日常動作にも波及しうる」ことを示唆します。スポーツ科学研究においては,その逆の現象,すなわち,「熟練したスポーツ選手の卓越性は,スポーツ場面に近い場面(もしくは訓練した状況と同じ特性を持つ刺激)に対してのみ発揮される」ということも多く報告されています。今回の研究は,こうした一連の議論を活発にしてくれる研究といえます。


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