セラピストにむけた情報発信



リーチできる距離の知覚判断に関連する脳波活動(Daviax et al. 2016)





2017年8月7日
自らの行為能力や,自分と環境との空間関係を正しく判断すること(ここでは知覚判断と呼びます)は,正しく行動を実践するために不可欠な要素です。今回ご紹介する論文では,知覚判断のパフォーマンスに,運動関連領域の脳波活動が関係している可能性を示唆した,フランスの研究です。

Daviaux, Y. I can't reach it! Focus on theta sensorimotor rhythm toward a better understanding of impaired action-perception coupling. Neurosci 339, 32-46, 2016

対象課題は,リーチできる距離の知覚判断課題でした。椅子に座った参加者に対して,コップを様々な距離に置き,利き手が届くがどうかを正確に判断させることが求められました。

知覚判断のパフォーマンスを変化させるために,この研究では,不安喚起条件を設定しました。不安喚起といっても,心理的な恐怖感を煽るといった操作ではなく,呼吸の量を一定量制限するという操作でした。多少息苦しい状況下で課題を遂行することになるわけですが,事後的な主観評価を見ると,こうした操作により,確かに不安感が一定量増大することが確認されています。

実験の結果,不安喚起条件下では,そうでない条件下に比べてリーチできる距離が過小評価されることがわかりました。著者らはこの結果を,不安状況下で安全志向的な(保守的な)判断をしたことの表れではないかと解釈しています。

こうした知覚判断の変化に付随して,利き手の反対側の運動関連脳領域のシータ波成分(この論文では6ヘルツまでと定義)が増大することがわかりました。

またこの研究では,“リーチできない”と判断されたときの方が,“リーチできる”と判断されたときよりもシータ波成分が増大することもわかりました。こうした結果から,不安喚起条件においては,「遠すぎてリーチできない」という判断に対する運動準備状態(リーチをしないという行動選択に対する準備)が喚起されたのではないかと,著者らは解説ました。

もともと,運動関連領域と後頭頂葉領域との間で見られるシータ波成分の同期現象は,感覚領域と運動領域での情報のアップデートの役割があると考えられています。こうした背景に基づき,知覚判断の問題にシータ波成分の検討を取り入れた点が,この研究のポイントです。 

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