セラピストにむけた情報発信



『知覚に根ざしたリハビリテーション』ピックアップその6(第11-12章)





2017年7月31日
書籍「知覚に根ざしたリハビリテーション」についての内容紹介の第6弾です。長く続けてきた本の紹介も,いよいよ今回で終了となります。今回ご紹介するのは,神経心理学的観点で執筆された2章です。

第11章 高次脳機能障害と身体表象(酒井浩)

作業療法士,酒井浩氏(藍野大学)によるご執筆です。

身体部位失認や半側空間無視といった障害を,身体表象の障害と捉えることで,効果的な介入戦略が立てやすくなるというのが,酒井氏の主張です。この章では,身体表象の形成にかかわるとされる頭頂葉の働きについて,神経心理学的な知見が豊富に紹介されています。また,頭頂葉が損傷を受けた時にどのような症状にいたるのかに関する知識がまとめられています。

トピックの一つとして,関連する認知機能のモデルとして,監視的注意制御モデルが紹介されています。このモデルは,基本的な情報処理については自動制御がなされるものの,自動制御ではうまくいかない状況においては,前頭前野を中心とした監視的注意制御がなされるするモデルです。このモデルにおける自動制御については,頭頂葉の様々な部位が役割を果たしていると考えられています。自動制御においては,自己と外界との情報を整理し,適切な行動を自動的に行動するための情報処理が成されます。

酒井氏は,こうした頭頂葉の自動制御特性を考えれば,無意識的な行動制御には,自分と周辺環境,時系列の行動文脈が必要であることから,リハビリテーションにおいて正しい動作を誘導するためには,周辺環境を整備し,患者との相互作用を導き出す過程が重要であると説明しています。


第12章 統合失調症,自閉症スペクトラム障害における身体イメージの障害と介入(中西英一)

統合失調症のような精神疾患や自閉症スペクトラム障害についても,やはり身体表象の障害と捉える必要性があるというのが,この章の最大の魅力です。

統合失調症について,身体や身体表象の問題を根幹において議論する機会はそれほど多くないように思います。統合失調症の症状である,幻覚・妄想のような症状や,意欲・感情の低下,会話・行動のまとまりのなさなどを考えた時に,必ずしもそれが身体や身体表象レベルの問題であると,表面的には理解できないからです。

しかし中西氏は,統合失調症の問題を身体や身体表象のレベルで考える必要性を,様々な根拠に基づいて説明しています。まず,普段の生活の様子について,特殊な姿勢を取って座っていた李,料理の時のテーブルや道具との位置関係に違和感があったりと,様々な形で身体にかかわる問題が見て取れることが指摘されています。

さらに文献的な情報を調べると,古くから瞳孔や腱反射といったレベルの問題が報告されていたり,身体イメージのゆがみが報告されていたりと,様々な問題を有していることが示されています。最近では,統合失調症の自我に関する障害は,身体所有感や自己主体感の低下と関連付けて説明されることも多く,そうした研究の一例が紹介されています。

自閉症スペクトラム障害についても,身体的な障害との関連性やそうした問題を踏まえたうえでの介入方法の提案など,有益な情報が多く紹介されています。


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