セラピストにむけた情報発信



『知覚に根ざしたリハビリテーション』ピックアップその5(第9-10章)





2017年7月24日
書籍「知覚に根ざしたリハビリテーション」についての内容紹介の第5弾です。

第9章 多感覚相互作用と立位姿勢制御(安田和弘)

早稲田大学の博士研究員,安田和弘氏(理学療法士)によるご執筆です。私の研究室における博士号取得者第1号のスタッフでもあります。

この章では,立位姿勢が,視覚,体性感覚,前庭感覚という多感覚情報の利用によって制御されている観点に立ち,脳卒中片麻痺者などの立位姿勢の研究を概観したものです。

多数の情報を利用するということは,状況に応じてそれらの情報をどのように利用するかを調整する(情報に対する重みづけを変える)必要があります。この章では,立位姿勢保持場面において,多感覚情報に対する重みづけの状況を評価する方法の紹介や,感覚情報の利用を適切な方向に調整するための介入方法が紹介されています。

またこの章では,脳卒中片麻痺患者が視覚依存的な立位姿勢を取っているのではないかという経験的な理解に対して,それをサポートするような研究や,少し異なる見方をする研究など,具体的にどのような知見があるのかについても解説しています。


第10章 認知科学的視点から見た手の行為の学習(大平雅弘)

樋口(研)で修士課程を修了した作業療法士,大平雅弘氏によるご執筆です。

手は行為をするための器官であると同時に,外界を認識するための器官であるというのが,大平氏の考え方の根底にあります。こうした考え方に基づけば,手の行為のリハビリテーションを考える際には,手の行為によって得られる体性感覚に基づいて外界を認識するプロセスにも着目して戦略を考えるべきだと,大平氏は主張します。

こうした主張は,これまで紹介してきた生態心理学的な考え方にも共通するところがあります。しかし,認知科学的視点に立つ場合,外界を認識するプロセスとして,運動学習の内部モデルや身体表象といった構成概念の存在を想定して議論します。

例えば,脳血管疾患例において,運動麻痺が軽度にもかかわらず,麻痺側身体を「自分の身体でない感じがする」といった内省が見られることがあります。認知科学的視点に基づけば,この問題は,運動意図に基づく感覚の予測(きっとこうした感覚フィードバックが得られるはずだ)と,実際に得られる感覚フィードバックとの間の乖離の可能性を考えることができます。健常者を対象にした場合でも,実験室的な操作によって両者に乖離をもたらすと,運動主体感が低下することがあります。大平氏は,こうした実験成果が,脳血管疾患例における身体所有感の低下とリンクしていると考えています。

大平氏の章では,2つの症例報告に十分なボリュームを取り,こうしたアイディアを具体的にどのように介入に取り入れているかについて説明をしています。


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