セラピストにむけた情報発信



『知覚に根ざしたリハビリテーション』ピックアップその4(第7-8章)





2017年7月18日
書籍「知覚に根ざしたリハビリテーション」についての内容紹介の第4弾です。

第7章 運動器疾患に対する生態心理学的アプローチ:クラインフォーゲルバッハの運動学を踏まえて(和泉謙二)

編者のお一人でもあり,静岡県理学療法士協会の会長も務められる,理学療法士,和泉謙二氏(共立鎌原病院)によるご執筆です。

この章では,3-6章で紹介された実践的なアプローチの根幹をなす,ダイナミックスラビライゼ―ション,パーキングファンクションといった概念が解説されています。

何らかの運動器疾患を有している患者の場合,疾患がもたらす疼痛や筋緊張,そして健常時からもともと持っている傾向性(健常者であっても姿勢が正しい状態にある人は少なく,何らかの問題を有している場合がほとんど)が重なり合って,不適切な姿勢や筋緊張の状態が作られます。こうした状態から脱却するための実践的手法として,クラインフォーゲルバッハの運動学の概念を導入しようというのが,和泉氏の主張です。

例えば,理想的な身体の状態を表現する用語として,パーキングファンクションがあります。これは,全身を5つのパーツに分けた時(頭頚部・胸部・腰椎骨盤帯・上肢・下肢),背臥位や腹臥位において,各パーツが支持面と接し,独立した重心を持った状態を示します。こうした状態に以下に誘導していくかということが,介入の目標の一つとなります。

章の中では,様々な姿勢条件の中でパーキングファンクションに誘導していく実践例が詳細に示されています。


第8章 生態学的π値の測定から見たリハビリテーション(豊田平介)

理学療法士,豊田平介氏(セントラル病院松濤)によるご執筆です。

生態学的π値とは,環境と身体との適合性を示す測定値であり,生態心理学の重要な概念の一つです。

生態心理学では,自己と環境を切り離さず,環境が特定されるとき,同時に自己も特定されていると考えます。したがって,身体の知覚(いわゆる身体感覚)と,環境に対する知覚(空間や物体の知覚・認知)を独立に評価するのではなく,両者の関係性の知覚を捉えようとします。たとえば,隙間や段差を見た時,“通り抜けられる隙間”,“登ることができる階段や段差”のように,身体と関連付けた形で知覚しているはずだと考えるのです。

生態学的π値は,環境特性/身体特性として数値化します。すなわち,生態学的π値を用いれば,「下肢長の何倍か」という形で表現でき,自己と環境の関係を示すことができます。

豊田氏は,脳卒中片麻痺者を対象に,歩行開始から自立歩行に至るまで,身体と環境に関する知覚がどのように変化するかを,生態学的π値の測定に基づき評価し,その成果を紹介しています。

章の冒頭では,豊田氏が生態心理学に出会ったきっかけについても触れられており,良い導入になっています。

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