セラピストにむけた情報発信



『知覚に根ざしたリハビリテーション』ピックアップその3(第5-6章)





2017年6月19日
書籍「知覚に根ざしたリハビリテーション」についての内容紹介の第3弾です。

第5章 高齢者に対する生態心理学概念を用いた取り組み(伊庭新也)

理学療法士,伊庭新也氏(野洲病院)によるご執筆です。予防的な観点で高齢者のリハビリテーションを考える(運動を通して,身体機能および動作能力の改善や低下の予防を考える),というのが主たる内容となります。

一般に,フレイル(虚弱)の状態にある高齢者に対しては,不活動な時間を減少させ,活動量を向上させることが,サポートの主眼となります。伊庭氏は,こうしたサポートとして重要な運動介入(いわゆるエクササイズ)のほかに,支持面の知覚を促し,効率よく動くための身体作りを目指して行っている運動を実践しています。

具体例の一つが,お尻揺すり運動です。端座位で臀部を小さく揺することにより,支持面の知覚を促すというものです。7章で詳しくする,ダイナミックスタビライゼーションという概念に基づいて実践される運動です。このほか伊庭氏は,支持面知覚を効果的に行うという観点では,紙おむつの使用にはデメリットがある,といった問題提起をしています。


第6章 中枢神経疾患に対する身体と環境の知覚に視点をおいたアプローチ(真下英明)

理学療法士,真下英明氏(舞鶴赤十字病院)によるご執筆です。「中枢神経疾患の患者さんが,変容した身体で環境に働きかけることで,今の自分の状態や環境との関係性を更新してもらう」という観点で執筆されています。

特徴的なキーワードは,「非麻痺側のアスリート化」です。巧みな非麻痺側の動作によって麻痺側をうまく取り込んでいきたいという想いが込められています。

ヒントは頚髄損傷の患者さんの適応にあると,真下氏は述べています。頚髄損傷者は,臀部や両下肢で床反力を感じることはできません。しかし,トレーニングを積むことにより,難なく座位姿勢をとり,車いすを利用することも可能です。こうした適応が中枢神経疾患の患者さんに起こるように導いていこうというのが,真下氏の考え方です。そのために必要な要素として,非麻痺側の動作を健常なときよりもさらに巧みな状態になることを目指すと,真下氏は述べています。

長年にわたる臨床経験の結果,多くの患者さんにおいて,麻痺側だけでなく非麻痺側の運動の拙劣さを有していることが,こうした着眼点のきっかけになったとのことです。

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