セラピストにむけた情報発信



『知覚に根ざしたリハビリテーション』ピックアップその1(第1-2章)





2017年5月15日
本日5月15日付けで,『知覚に根ざしたリハビリテーション:実践と理論』が出版されました。11名のセラピスト(理学療法士5名,作業療法士6名)と4名の研究者が執筆に携わり,全14章で構成されています。目次などの情報はこちらをご覧ください

今後このコーナーでは,一部の章をピックアップして内容を紹介いたします。

第1章 知覚に根ざした運動制御・学習の考え方(樋口)

全体の構成やコンセプトを紹介するためのガイド役としての内容を意識して執筆しました。知覚の機能は,絶え間ない運動の調整のために不可欠であることについて概説しています。

あらゆる状況で安定した動作を実現するためには,状況に応じて絶え間なく運動を調整する必要があります。こうした調整能力を(再)獲得することが,リハビリテーションにおける目標の一つとなります。こうした調整能力は,状況を把握する知覚機能と,柔軟に調整できる運動機能(自由度が解放され,動作のバリエーションが十分に増えた状態にある運動機能)の2つが揃って,初めて成立します。こうした観点から,本書全体を通して知覚の機能に着目していこうというのが,主たるメッセージになっています。

一言で知覚といっても,専門領域によって,考え方や運動との関係性の捉え方も異なります。この章では「認知科学・神経心理学」と「生態心理学」に分けて,その考え方についてもまとめています。なお,本書では2-8章が生態心理学的アプローチ,9-12章が認知科学・神経心理学的アプローチ,そして13-14章が理論解説の章です。

第2章 知覚を重視したADLの支援(髙橋啓吾)

作業療法士,髙橋啓吾氏(リハビリテーション天草病院)によるご執筆です。日常生活動作(ADL)をいかに柔軟な動作にしていくか,というテーマについて執筆されています。

たとえ訓練室で見せる動作(できるADL)が柔軟であったとしても,実際に日常生活の中で見せる動作(しているADL)は,固定的で柔軟性に欠けることがあると,髙橋氏は指摘します。髙橋氏は,こうした状況を改善するためには,「動作を遂行する環境設定の考慮」,「環境を適切にとらえられるように知覚機能を整えること」,そして,「動作基盤としての前身の姿勢制御の調整」という3つの視点が必要であると述べています。

章の後半では,具体的な介入例が紹介されています。食事,整容,更衣,排せつ,入浴を対象に,「環境適応講習会」で使われている技術を参考とした介入を行っています。

箸操作の介入として,お手玉を使用した練習が紹介されています。お手玉は,箸操作に対して形が変形することや,適度な重量感を感知できるという点で,箸操作時の知覚も含めた機能向上が期待される,というアイディアです。さらに,入浴に対して強い恐怖感を見せる患者さんに対しては,スポンジで浴槽を掃除してもらうという介入例が紹介されています。掃除を通して,浴槽の深さや大きさを知覚してもらうことが主眼とのことです。いずれの介入例も,知覚に根ざしたリハビリテーションとは具体的にどういうことなのかを,具体的な形で示しています。


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