セラピストにむけた情報発信



方向転換時の視線の役割(Authie et al. 2015)




2017年2月6日
曲がり角を曲がる場合や曲線的な軌道で歩く場合(方向転換動作),体幹よりも先に,視線が曲がる方向を向きます。

今回ご紹介する研究は,暗闇でもこうした視線の動きがみられることを報告することで,単に視覚情報を得るためだけではなく,別の理由においても視線の動きが有用であることを示した研究です。

Authie CN et al. Differences in gaze anticipation for locomotion with and without vision. Front Hum Neurosci 9, 312, DOI: 10.3389/fnhum.2015.00312, 2015

オープンアクセスの論文ですので,どなたでも無料で原文をダウンロードできます。ただし内容的には高度に専門的ですので,彼らのデータの全てを理解しようとすると非常に骨が折れます。イントロダクションを読んで,こうした研究の背景を知るといった目的ならば,原文に当たるのも有益と思います。

実験では,八の字型に歩くなど,曲線的に歩いている時の身体や眼球の動きを詳細に測定し,体幹の動きに先行して眼球が移動方向に向けられるかを検討しました。前述のように,通常の照明条件と暗闇条件での結果を比較することに特徴があります。

その結果,通常の照明条件でも暗闇条件でも,眼球運動の先行的な動きがみられることがわかりました。こうした先行的な眼球運動の動きには,「どのような軌道を描くべきかを予測しておくため(軌道のシミュレーションをするため)」,「どの程度眼球を回転させたか情報を体幹の回転に利用するため」といった機能があると言われています。

暗闇でも先行的な眼球運動の動きが観察されることは,視覚情報を獲得すること以外の目的で眼球が動いていることを実証するため,こうした機能の存在を示唆するものとなります。

またこの研究では,これまで主として上肢動作で検討されてきた,機能的な眼振(functional nystagmus)が,歩行時にも生じることが示されました。この眼振は,前庭感覚情報と体性感覚情報を統合することで,回転時にも安定した空間知覚を保証するための機能を果たしていると考えられています。こうした機能が歩行中にも確かに働いているのだろうというのが,著者の主張です。


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