セラピストにむけた情報発信



脳卒中片麻痺者におけるTUG課題遂行中の歩行軌道
(Bonnyaud et al. 2016)




2016年8月21日
Timed Up and Go (GO)テストでは,イスから立ち上がって3m先のコーンを回り,再びイスに座るまでの所要時間を計測します。TUGは,これまで多くの調査で用いられ,歩行能力や転倒リスクの評価に利用できることが示されています。

今回ご紹介するのは,TUG課題遂行中の歩行軌道を分析することで,転倒危険性をさらに精度よく評価できるかについて検討したものです。オープンアクセスの論文ですので,どなたでも文献PDFをダウンロードして閲覧できます

Bonnyaud C et al. Locomotor Trajectories of Stroke Patients during Oriented Gait and Turning. PLos One 11, e0149757, 2016

実験には脳卒中片麻痺者29名,およびコントロール25名が参加しました。脳卒中片麻痺者のうち8名は,過去3カ月以内に転倒を経験していたものとして,転倒群とカテゴライズされました。

TUGにおける歩行軌道の分析には,Hausdorff Distance(HD)という指標と,Dynamic Time Warping(DTW)という指標が用いられました。詳細な説明は省きますが,いずれも参照軌道(Reference)からの逸脱を表現しうる指標です。単純なユークリッド距離を計算することに比べて速度の影響を受けにくい指標であるため,片麻痺患者とコントロールの比較に適していると言えます。いずれの指標も,数値が大きいほど参照軌道からの逸脱が大きいことを示します。

実験の結果,2つの指標のいずれにおいても,片麻痺患者の数値が大きくなりました。つまり,片麻痺患者のほうが遠回りな軌道でTUGを遂行したことがわかります。

ロジスティック回帰分析という方法を用いて,HDとDTWが転倒予測にどの程度寄与しているかを検討した結果,比較的高い寄与が確認できました。こうした結果は,歩行軌道の解析が,TUGを用いた新たな評価指標として有用である可能性を示しています。

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