セラピストにむけた情報発信



高齢者におけるデュアルタスク条件下の姿勢バランス回復
(Little et al. 2014)




2016年7月4日
床を動かせる装置を使って,立位時に不意のタイミングでバランスを崩した際のバランス回復過程を調べることができます。

今回ご紹介するのは,高齢者を対象としてこのバランス回復過程を調べた研究です。認知課題とのデュアルタスク条件においてどのような姿勢応答が見られるのかについて報告しています。オレゴン大学のWoollacott氏のグループによる研究成果です。

Little E., et al. Effect of attentional interference on balance recovery in older adults. Exp Brain Res 232, 2049-2060, 2014

実験には高齢者34名(65-77歳)と比較対象の若齢者34名が参加しました。また正式な実験参加者には組み込まれなかったものの,この他に虚弱高齢者5名にも参加してもらいました。

デュアルタスク条件下で使用する二次課題は,視覚的記憶課題でした(change detection task)。

この課題では,目の前に設置されたディスプレイ上に2から6個の四角形が色付きで2度呈示されます。参加者は2度の呈示の中で色の変更があったかどうかをyes-no形式で答えました。この課題で求められるのは純粋な情報の保持・記憶であり,情報の入れ替えといった認知処理は必要としない課題でした。

実験結果について,まず認知課題の成績について着目してみると,高齢者は視覚的記憶課題を単独で行った場合に比べて,バランス回復が必要な立位姿勢条件において成績が大きく低下していました。

Posture-first strategyの考え方(デュアルタスク条件下においては,姿勢バランスが主課題となるため,その影響はむしろ二次課題である認知課題に顕著にみられる)に基づけば,この結果は,高齢者にとって不意のバランスの崩れを立て直す過程には多くの認知資源が必要であることを示唆します。

次に姿勢応答の動作特性に着目してみると,高齢者は若齢者に比べて,デュアルタスク条件下でステップ方略を取ったり,踵が浮いてつま先立ち姿勢になったりする頻度が多いことがわかりました。つまり高齢者は,デュアルタスク条件下では足関節方略や股関節方略でバランスを維持することが困難であったと言えます。

この論文で著者らは,若齢者であってもデュアルタスク条件下で視覚的記憶課題の成績が低下していることにもハイライトを当て,次のように解説しています。「たとえ若者であってもデュアルタスクの影響がみられるということは,不意のタイミングでバランスを崩した際のバランス回復過程には,情報の保持にかかわる認知情報処理が関わっている。」

バランスを崩した時の姿勢応答は非常に短い潜時での応答が必要であり,なかば自動的な修正のように思われます。しかし,デュアルタスク条件の影響を調べた数多くの研究成果は,こうした素早い応答においても高次認知機能が関与している可能性を示唆しています。


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