セラピストにむけた情報発信



バーチャルリアリティを利用したバランス評価とリハビリテーション
(Morel et al. 2015)




2016年6月13日
リハビリテーション対象者の立位バランス評価やリハビリテーションに対して,バーチャルリアリティ(VR)のシステムを利用しようとする試みが,世界中で行われています。今回ご紹介するのは,そうした研究のレビューを行い,その意義や限界を示した論文です。

Morel M et al. Advantages and limitations of virtual reality for balance assessment and rehabilitation. Clin Neurophysiology 45, 315-326, 2015

VRは,運動スキルの訓練やリハビリテーションを安全におこなうという点で大きなメリットがあります。VRを用いれば,外科手術や障害物回避動作の訓練を,誰も怪我することなく行うことができる,という期待があります。

このほかにも,VRを用いるメリットがあります。

VRの場合,対象者に呈示する刺激を完全にコントロールすることができます。対象者に合わせてカスタマイズした形で,刺激を呈示し,理想的なリハビリテーションができます。また,個人差が非常に大きい評価者に対して,刺激を標準化することで,評価の客観性を保つということも期待されています。

VRのゲーム性・エンターテインメント性を期待する側面もあります。任天堂のWii fitに代表されるように,測定した結果をゲーム性の高い視覚刺激と連動させることで,誰もが楽しみながらバランス訓練ができるかもしれません。

対象者の動きに対応してVRの刺激を変化させるためには,対象者の動作を計測することが必要です。かつては,こうした動作計測システムは非常に高額でした。しかし最近では,KinectやWiiの登場により,安価で実現できる時代になりました。論文では,こうした様々なメリットを生かした研究が数多く紹介されています。

論文では,現状の問題点についても説明しています。

1つの問題は,測定した結果がVRに反映されるまでの遅延です。非常にわずかな遅延ではありますが,実際に測定をされている対象者の脳にとっては,この遅延が混乱(motion sickness)を生じさせる可能性があります。動作司令に対するフィードバック情報が遅れることで,脳が混乱するものと考えられます。この混乱が原因で転倒が生じる恐れがあると,著者らは指摘しています。

もう一つの問題は,奥行き感の再現性が必ずしも十分でないという点です。これについては,現状では,評価やリハビリテーションへの応用という意味では,マイナーな問題かもしれませんが,歩行訓練などへの応用などを考える際に,改善が求められる問題ともいえるかもしれません。

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