セラピストにむけた情報発信



高齢者における歩行中の視線行動:システマティックレビュー
(Uiga et al. 2015)




2016年6月6日
歩行中の視線行動特性を明らかにすることで,歩行制御に必要な視覚情報がいつどのような形で獲得されるのかについて議論することができます。今回紹介する論文は,高齢者の歩行中の視線行動を測定した研究をレビューした最近の研究です。

Uiga L et al. Acquiring visual information for locomotion by older adults: a systematic review. Ageing Res Rev 20, 24-34, 2015

複数の基準を設定したシステマティックレビューという方式により,最終的に25個の研究論文をピックアップしました。この中には,山田実氏(現筑波大学)と私が共同で発表した2つの論文も含まれていました(2012年発表の論文はこちら2013年発表の論文はこちら)。

25個の論文は大別して,直線歩行や方向転換動作を扱った研究4件,階段昇降を扱った研究3件,障害物回避動作やターゲットへの着地動作を扱った研究13件,外乱によりバランス維持を難しくした場面を扱った研究5件となりました。

高齢者と若齢者を比較すると,視線を固視(fixation)する場所とその持続時間,また固視点を移動させる特性(saccade)に様々な違いが見られます。高齢者をさらに,転倒経験者と非経験者に分けると,特に転倒経験者の視線行動は,若齢者とはっきり異なる場合があります。

著者らはこうした視線行動を,単なる機能低下と見るのではなく,「加齢による影響下でも,視覚の役割(遠方の環境情報を事前に獲得することや,オンラインに運動を制御すること)を果たすための適応の結果」と表現しています。

全般的に言える特徴の一つとして,高齢者が周辺視野よりも中心視に基づいて環境情報を獲得しようとしている傾向や,環境情報を獲得するよりもむしろ,バランス維持のために視覚を使っている傾向があると,著者らは指摘しています。

また,ターゲットとなる対象物に対する固視の持続時間が長くなる傾向も,比較的多くの研究に見られた特徴です。加齢に伴う認知機能(ワーキングメモリ・実行機能など)の低下により,処理時間がかかるためではないかと考察しています。

歩行中の視線行動と一口に言っても,環境や求められる動作が異なれば,視線行動の特徴は全く異なります。同様に,高齢者の視線行動の特徴についても,大枠で言えば上記のような特徴が見て取れますが,ピックアップされた個々の論文で報告されている特徴は,実際には非常に多様です。従って,視点が異なる人がこれらの論文を概観すれば,異なる共通項を見出すかもしれません。

このレビュー論文では,ピックアップした25論文の全てについて,主たる結果を示してくれています。関心のある方は,そうした個々の成果に着目し,どのような共通性が見て取れるかについて自分なりにまとめてみるのもよいと思います。

(メインページへ戻る)