セラピストにむけた情報発信



歩行中のバランス維持が難しい状況での隙間通過行動
(Hackney et al. 2015)




2016年5月23日
今回ご紹介するのは,隙間通過に関する研究です。私のかつての研究仲間でもある,カナダのMike Cinelliと,隙間通過でここ最近連続して論文を報告している,Amy Hackney氏らによる研究です。

Hackney AL The effects of narrow and elevated path walking on aperture crossing. Hum Mov Sci 41, 295-306, 2015

今回彼らが注目したのは,隙間にアプローチする歩行通路を極端に狭くした場合の影響です。床の上に狭い歩行通路を設けた場合と,平均台の上を歩かせる場合の2条件で,隙間通過課題を実施しました。

どちらの条件も歩行通路の幅は同じですので,歩行のコントロールという意味では,両者は同じ負荷がかかっています。しかし,平均台の上を歩く場合には,落下した場合のリスクが高まるなど,恐怖感を喚起させる条件となります。

29名の若齢参加者を2群に分けました。通常歩行条件のほかに,床の上の狭い通路の歩行条件,もしくは平均台の上の歩行条件のいずれかで隙間通過を行いました。

実験の結果,顕著な影響が表れたのは,平均台の上を歩く条件のみでした。平均台の上を歩いた条件では,①接触回避のために体幹回旋が始まる隙間幅が,通常よりも広くなること,および,②狭い隙間に対しての体幹回旋の角度(magnitude)が小さくなることがわかりました。

①と②を総合すると,隙間幅に合わせて回旋角度を調節するというよりは,いつでも同じだけ体幹を回旋するという制御方略をとっていると言えます。特に,狭い隙間に対して回旋角度が小さくなることについて,著者らは,大きく回旋することがバランス維持に及ぼす悪影響を懸念しての動作方略だろうと考察しています。

一方,床の上で歩行通路を狭くした場合には,通常歩行条件と違いが見られませんでした。このことから,一連の行動変化は,恐怖心に関連する変化であろうと推察されます。

著者らは,平均台の上で見られた動作特性と類似の特性が,高齢者の隙間通過行動でも見られると指摘しています。バランスに維持に不安がある場合の隙間通過行動の特徴なのかもしれません。


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