セラピストにむけた情報発信



障害物のまたぎ動作:接触経験がその後のまたぎ動作に及ぼす影響
(Rhea et al. 2011)




2016年5月16日
今回ご紹介するのは,障害物をまたいだ時に接触してしまった経験が,その後の回避動作にどのように影響したかについて報告した論文です。経験に基づく予期的な歩行の調整を明らかにすることを目指しています。

Rhea CK et al., Influence of an unexpected perturbation on adaptive gait behavior. Gait Posture 34, 439-441, 2011

この論文は,過去に著者がおこなってきた2つの実験(国際学会報告)の中で,接触が起こってしまった試行をピックアップし,その前後で動作がどのように変化したのかを報告しています。いずれも下方周辺視野を制限した場合のまたぎ動作の変化について検討した実験でした。

2つの実験合わせて1140試行の測定があり,その中で9試行の接触がありました。このうち,接触前後の測定が可能な5試行に着目して,接触後にまたぎ動作がどのように変化したかを検討しました。

主たる結果は以下の通りでした。
・接触は全て後続脚で起きていた。
・接触後は,障害物をまたぐ際に足を高く上げるような動作修正が起きた。この傾向は少なくとも8試行は続いた。
・後続脚がまたぎを開始する位置については影響がなかった。
・先導脚にも影響がなかった。

これらの結果から著者らは,接触経験は,次に接触が起きないような安全方略(生体力学的に見れば,過度な安全方略)を取るような動作修正を促すと結論付けました。少なくとも8試行はその傾向が持続されていることから,一度そうした方略が取られると,それがある程度長続きすることがわかります。

さらに,動作修正は接触が生じた脚(後続脚)だけに起こったことから,先導脚と後続脚の制御は比較的独立に制御されているのではないかと考察されました。同じ主張は,他の先行研究でも散見されます。またぎ動作のように両下肢の動きが異なる場合については,両下肢の制御には一定の独立性があるのかもしれません。

この論文は,“Short communication”というスタイルで書かれており,長さはたった3ページです。内容に深い興味がある方は,英語の原著論文に挑戦してみてもよいかもしれません。

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