セラピストにむけた情報発信



段差を降りる動作の制御:下方周辺視野の関与(Buckley et al. 2011)




2016年5月6日
今回ご紹介するのは,段差を降りる動作に着目した論文です。周辺視野で捉えられた情報が下肢の制御にどのように役立っているかを検証しています。オープンアクセスの論文ですので,ご関心のある方はどなたでも無料で論文をダウンロードできます

Buckley JG et al. When is visual information used to control locomotion when descending a kerb? PLoS One 6, e19079, DOI: 10.1371/journal.pone.0019079, 2016

段差を降りる際の安全性は,降り動作の開始位置と,段差を降りた際の着地位置を正しく決定することで担保されます。段差を降りた際にバランスを崩さないことや,衝撃をできるだけ少なくすることを計算しながら,それらの位置や,最適な移動速度が決定されていきます。

こうした種々の決定のためには,まず段差を正しく知覚する必要があります。今回の研究では,段差を降りる直前の着地時(このページではN-1歩と表現),およびその1歩前の時点(N-2歩)という2つの局面で,下方周辺視野を制限し,その影響を調べています。

12名の若齢健常者を対象として実験した結果,段差の降り動作に変化が見られたのは,N-2歩で下方周辺視野を制限した場合でした。この時点で下方周辺視野を遮断すると,段差が見えなくなるので,「降り動作の開始位置」と「段差を降りた際の着地位置」の両方が見えない状態となります。こうした場面での安全性を保障するため,できるだけ足を高く上げて段差を降りようとしたり,ゆっくりと降りようとしたりする動作の修正が見られました。

但し,下方周辺視野を制限しても,転倒が起こることは一試行もなく,また,着地する位置自体には変更がありませんでした。こうした結果を受けて著者らは,たとえ重要な局面で下方周辺視野を制限したとしても,全体的な歩行プランは,アプローチの段階での視覚情報で正しく計画されているため,根本的な歩行パターンに影響はないと結論付けています。

下方周辺視野制限を行った状態での障害物動作研究は,比較的多くあります。そうした研究の中で,今回ご紹介した研究は,踵接地を感知できるセンサー(フットスイッチ)をトリガーとして,歩行中の特定の設置タイミングで視野制限をしたことが,技術的に進んでいます。中枢の歩行制御の時間的な側面を知るうえで,有益な技術と思います。

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