セラピストにむけた情報発信



パーキンソン病患者の方向転換時にみられる‘すくみ足’:
バーチャルリアリティ課題を用いた脳活動測定(Gilat et al. 2015)




2016年4月25日
パーキンソン病患者が歩行中に‘すくみ足’の状態となる場面の一つに,方向転換の場面があります。廊下から部屋に入る場面(およそ90度の方向転換)や,忘れ物を思い出して取りに戻る場面(およそ180度の方向転換)が,日常場面での方向転換の一例です。

今回ご紹介する研究は,この方向転換場面をバーチャルリアリティ(以下,VR)で再現することで,方向転換場面での脳活動を測定しようとするものです。

Gilat M et al. Brain activation underlying turning in Parkinson’s disease patients with and without freezing of gait: a virtual reality fMRI study. npj Parkinson's Disease 1, 15020, DOI: 10.1038/npjparkd.2015.20

この雑誌は,Nature Publishing Groupが出版している新しい雑誌です。オープンアクセスですので,興味がある方はどなたでも論文をダウンロードできます


Nature Publishing Journalについてはこちらをご参照ください。

VRを利用してパーキンソン病患者の脳活動を測定する試みは,以前からいくつか存在します。その中で,この研究が新しいのは,「両足でペダルを踏むことでVR画面上で前進する課題」を導入したことです。

この課題で歩行を成立させるためには,単に頭の中で歩行をイメージするだけではなく,へダルを踏むという下肢動作を実行させる必要があります。その脳活動を測定することで,すくみ足を生じさせる脳内ネットワークを特定しようとしたのです。

VR課題では,直線歩行,90度の方向転換(直線通路が左右のいずれかに曲がる),そして,「STOP」サインが出た時に立ち止る(ペダル操作をやめる)ことが求められました。立ち止まる局面での脳活動を測定することで,「すくみ足が生じる患者の方向転換時の脳活動は,立ち止まる際の脳活動に似ているのではないか?」という考え方の妥当性を検証しました。

実験には,日常生活ですくみ足が生じる患者17名と,すくみ足を生じない患者10名が参加しました。すくみ足が生じる患者では,すくみ足が生じない患者比べて,非常に広い範囲で高い脳活動が見られました。特に,視覚野や,前頭前野脳領域での脳活動が高くなりました。

視覚野の活動が高くなったことについて,著者らは,平常から体性感覚情報に基づいて運動をコントロールすることができず,視覚的な代償が起きていることの表れではないかと考察しました。また,前頭前野の活動が高くなったことについては,基底核を中心として自律的・自動的制御が困難になったことで,より意思的・意識的なステップ動作を実行しているのだろうと考察しました。

実際,逆に,運動前野や上頭頂溝など,視覚運動制御や間か訓導統合に関わる脳領域の活動は,すくみ足が生じる患者のほうが低かったことから,健常者とは異なる脳内ネットワークで方向転換動作を制御しているものと考えられます。

また,すくみ足が生じる患者における方向転換時の脳活動は,立ち止まる際の脳活動と似ていることもわかりました。この中には,立ち止まるために重要なネットワークと考えられている,視床下核と皮質下領域の淡蒼球内節のネットワークも含まれていました。

VRの技術を使うことで歩行中の脳活動を測定するという,ここ最近の研究のトレンドが,着実に成果を出し始めていることを示す研究の一つです。

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