セラピストにむけた情報発信



パーキンソン病患者のすくみ足:床への縞模様の効果に対する
2つの検討(Beck et al. 2015)




2016年3月14日
今回ご紹介するのは,パーキンソン病患者のすくみ足に関する研究論文です。ボリュームがある論文ですが,ここでは焦点を絞って,床の縞模様によってすくみ足が改善される理由について検討した結果について紹介します。

Beck EN et al. Freezing of gait in Parkinson’s disease: an overload problem? PLoS One 10, e0144986, 2015

床の縞模様によってすくみ足が改善される理由として,ここでは2つの説明の有効性が比較検討されています。

第1の説明は,認知的な要因に基づくものです。パーキンソン病患者の中には,歩行を自動制御するのが困難なケースが見られます。床に縞模様をつけることにより,下肢を注意に向けて意識的・認知的に制御することを助けるのではないか,という説明です。

もしこの説明が正しいならば,別の認知課題を同時におこなうデュアルタスク状況を作り出せば,注意を下肢に向けることができないため,縞模様の効果が認められにくくなることになります。

第2の説明は,知覚的な要因に基づくものです。床の縞模様は,下肢の状態を視覚的に捉えることを促し,その結果として正確なフィードバック情報が中枢に伝わって,歩行を助けるのではないか,という説明です。

もしこの説明が正しいならば,下を向いても下肢が見えないように隠してしまえば,視覚的な代償ができないため,縞模様の効果が認められないことになります。

今回紹介する研究では,こうした2つの説明の妥当性を,2つの実験を用いて検討しました。

残念ながら,これら2つの説明に白黒をつけるような結果ではありませんでした。以下,結果の概要を示します。

日常からすくみ足がある患者は,縞模様があることで,デュアルタスク状況であっても歩容の改善が認められました。このことから,認知的な要因だけで完全に説明できるわけではないと言えます。

次に,下肢を隠すことに歩容に悪影響が見られました。しかし,縞模様のあることのメリットは残っていました。また,下肢を隠している際は視線が上を向くこともわかりました。

著者らはこうした結果に基づき,「下肢を隠すことで,“今ここ”の下肢情報をオンライン制御することをあきらめ,少し先の情報に基づく予期的な制御にシフトさせる効果があったのではないか」と考察しました。

当初設定した仮説と合致した結果ではなかったため,少しストーリーが複雑ではありますが,得られた情報には,パーキンソン病患者の歩行障害について理解するための多くのヒントがあるようにも思います。次年度より研究生として研究室スタッフに加わってくれる近藤夕騎さんにご紹介いただきました。


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