セラピストにむけた情報発信



メンタルローテーションにおける”回転のない状態”は何を基準にしている?
(Bock et al. 2015)




2016年1月19日
メンタルローテーションとは,回転した状態で呈示された刺激を心的に回転し,回転のない正立した状態を認識するための認知活動です。

今回ご紹介する研究では,回転のない正立した状態とは,いったい何を基準にしているのかについて検討した研究です。

Bock OL et al.Mental rotation of letters, body-parts and scenes during whole-body tilt:role of a body-centered versus a gravitational reference frame. Hum Mov Sci 40, 352-358, 2015

基準となるものの候補が2つあります。

第1の候補は,身体軸(正中軸)です。特に手足のような身体刺激の場合には,身体表象(身体スキーマ)を参照している可能性が指摘されています。このことからも,身体軸を基準としていても何ら不思議ではありません。

第2の候補は,重力軸です。普段,重力を意識して生活することはありませんが,通常,重力軸と身体軸がほぼ同じ方向となっていますから,実は主観的に成立した状態が,重力軸を利用している,あるいは,どちらも利用している,といったことがあるかもしれません。

そこで,この研究では,身体を回転させることができる装置を使って,左に全身を60度傾けさせた状態でメンタルローテーションをおこなってもらいました。

もし身体軸を基準としているならば,60度左に回転呈示された刺激に対する判断が最も早くなるはずです。一方,重力軸を基準にしているならば,回転0度の時の判断が最も早くなるはずです。

実験の結果,60度回転した状態では,左に傾いた刺激に対する反応が若干早くなるものの,60度の回転刺激に対する刺激が最も早くなるわけではありませんでした。反応時間の関数を曲線近似したところ,12度ほど左に回転した刺激に対して最も反応が早くなるという結果となりました。

著者はこの結果から,メンタルローテーションでは重力と身体軸の両者を利用して心的回転をしているが,特に重力軸に対して重み付けが高い,と結論づけました。

なお,この結果は,回転刺激が身体刺激であろうと文字刺激であろうと,変わりませんでした。このことから,両者は同じ参照基準を使っているのではないかと考察されています。

身体刺激のメンタルローテーション研究では,身体表象を参照した心的回転の話題が議論されています。今回の結果は,それとは少し異なる結論として,注目に値する結果と思います。

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