セラピストにむけた情報発信



パーキンソン病患者の隙間通過行動:2つの検討
(Silveira et al 2015)




2015年12月21日
パーキンソン病患者が,狭い隙間を通り抜けようとする際にすくみ足が生じたり,極端な減速がみられることが知られています。今回ご紹介する論文は,カナダのWilfrid Laurier大学で長年パーキンソン病患者の知覚運動制御の問題について検討している,Almeida氏のグループの最近の研究です。

Silveira C et al. Disentangling perceptual judgment and online feedback deficits in Parkinson's freezing of gait. J Neurol 262, 1629-1636, 2015

この研究の目的は2つありました。

第1の目的は,「すくみ足が生じやすいのは,トンネル型の狭い通路を歩き続ける場合か,それとも,広い通路が徐々に狭くなり,ある場所で隙間を通り抜ける場合か」について検討することにありました。実験室に長さ7mもある木製のついたてを用意し,これを平行に並べるか,それとも先細りするように並べるかによって,これら2つの歩行条件を作りました。歩行中の脚の設置位置を測定して,歩幅のばらつきの程度(すくみ足と関連する歩行特徴)を測定しました。

その結果,すくみ足の症状を呈するパーキンソン病患者の歩幅のばらつきが顕著だったのは,トンネル型の平行な通路を歩いている条件でありました。常に狭い場所を歩いているときのほうが,視知覚的な負荷が高く,歩行に影響してしまうということなのかもしれません。

この研究の第2の目的は,隙間通過時に見られるすくみ足などの問題が,隙間に対する視知覚的な問題と関係しているかを調べることにありました。つまり,隙間を実際よりも極端に狭いと感じている,といった問題が背景にないかを調べることにありました。

この問題は,これまでも様々な研究で何度も検討されていますが,必ずしも知覚的な問題が顕著ではありませんでした。おそらく著者らは,必ず何らかの知覚的問題があるはずだと考え,この問題を再検証しました。実験では,10m先にある隙間幅が70㎝であることを正確に知覚できているかを測定しました。

実験の結果,日常生活の中ですくみ足がみられるパーキンソン病患者は,比較対象群である健常者に比べて,判断にばらつきがみられることがわかりました。また重回帰分析の結果,判断のばらつきが大きい対象者ほど,徐々に狭くなる歩行条件において,歩行中の両脚立脚時間が長くなることがわかりました。

著者らはこの結果について,隙間幅の判断がばらついている人は,狭い隙間を通る際に慎重に判断しているのではないかと解釈づけました。なお,参加者が自身の判断のばらつきを自覚しているわけではないため,仮に著者らの解釈が正しいとしても,それは意図的な行為ではないように思います。


Almeida氏のグループは,歩行の知覚運動制御という観点から,様々な知見を提供してくれています。今後も近いうちにこのコーナーで彼らの研究を紹介する予定です。

この論文は,国立精神・神経医療研究センターの近藤夕騎氏にご紹介いただきました。ここに記して謝意を表します。

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