セラピストにむけた情報発信



高齢バスケット選手のフリースロースキルと“Quiet eye”
(Fischer et al. 2015)




2015年11月24日
年齢を重ねても,現役でスポーツ競技に携わる選手たちがいます。今回ご紹介するのは,長年バスケットボールをしている人たちの円熟したフリースロースキルと,それを支える視覚スキルに着目した研究です。

Fischer L et al. Retention of quiet eye in older skilled basketball players. J Mot Behav 47, 407-414, 2015

視覚スキルとして着目したのは,“Quiet eye”と呼ばれる現象です。Quiet eyeとは,視線を一定の時間動かさずに対象物を固視する現象です。フリースローの際には,熟練者になるほどシュート直前に視線をゴールに固定させることが知られています。

この研究では,今でもマスターズリーグで活躍する40-50歳の選手(Middle age,平均経験年数は28年),および65-80歳の選手(older age,平均経験年数は57年!!)を対象に,フリースローの正確性と,その際のQuiet eyeの長さを測定しました。同年齢の未経験者との比較検討をおこないました。

実験の結果,フリースローの成績は,Middle ageの熟練者 が最も高く,Older ageの熟練者がそれに続きました。いずれも,未経験者よりも高い成績でした。

Quiet eyeについては,群間差が統計的には5%レベルの有意差には至りませんでした。しかしながら,6%レベルの有意差であったこと,さらに効果の大きさ(effect size)も比較的大きかったことから,群の違いを検討してみることにしました。

その結果,Middle ageの選手については比較的長い視線の固定,すなわちQuiet eyeの現象が確認されましたが,Older ageの選手については,むしろ視線の固定時間は未経験者よりも短い傾向にありました。

この結果から著者らは,高齢者のフリースロースキルは,Quiet eye以外のスキルに支えられているのではないかと推察しました(compensation hypothesis)。Quiet eyeの機能は,動作開始前のプログラミング(preprogramming)を正確に行うことにあるのではないかといわれています。50年にもわたってバスケット競技に携わっていた選手ならば,事前の入念なプログラミングなど必要ないのかもしれません。

一般に,高齢者を対象とした研究では,高齢者の運動機能・身体機能が低下した側面に着目します。それに対して本研究は,長年にわたってスポーツ競技に携わってきた選手としてのスキルに着目しています。研究の細部を見れば,色々とクリアーでない部分もある論文ですが,興味深い切り口の研究であると思います。

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