セラピストにむけた情報発信



本紹介「だいじょうぶ?子どもの目」




2015年11月16日
「子供のころから眼鏡をかけるなんて,かわいそう」

今回ご紹介するのは,多くの人たちが持つこうしたイメージが決して正しくないことを,一般向けに優しいタッチで書かれた本です。日本スポーツ視覚研究会の世話人をされている,枝川宏氏(えだがわ眼科クリニック)の著書です。

枝川宏「だいじょうぶ?子どもの目」イー・スポーツ出版,2007

幼少のころは,大人に比べて遠視や斜視が起こりやすいと考えられています。遠視は,あたかも遠くがよく見えるかのような印象を持ちますが(つまり近視の逆,というイメージ),実際には遠くもよく見えていません。水晶体を通して得られる光の情報が,網膜上でしっかりとした像を結ばないために,近くも遠くも見えにくい状況になっています。

幼少時の視覚経験は,正常な視覚機能の発達にとても重要です。遠視の状態で長く過ごすと,はっきりとモノを見るための脳の視覚機能を発達させる機会を逸してしまうことになります。

斜視も同じです。私たちが網膜上に投影される二次元映像から,日常の三次元空間を再構成させるためには,両眼で見ることが重要です。幼少のころの斜視の状況を放置しておくと,両眼視の機能を発達させることができなくなってしまいます。

幼少時の遠視や斜視を,矯正せずに放置してしまえば,大人になって弱視などの問題が生じることになりかねません。このように考えれば,むしろ眼鏡による矯正が必要な子に対して,眼鏡をかけさせない状況こそ,かわいそうな状況だと,枝川氏は指摘しています。

子を持つ親の立場からすれば,近視であれ遠視であれ,我が子が眼鏡をかけないとはっきりとモノが見えないという事実は,なかなか受け入れがたい状況です。

枝川氏は,長年の臨床経験の中でこうした方々と多く接する中で,「そもそも近視・遠視・乱視を,目の異常と決めつけるのではなく,目の生理的なバリエーションを表現する呼称」と考えるように提案をしています。様々な個性を持つ目のバリエーションを把握し,よく見える状態になるように調整してあげるという発想で,「かわいそう」という固定観念からの脱却を促しています。

一般向けに執筆された本ですので,目の特性に関する様々な専門知識が,とてもわかりやすく書かれています。「医学的な知識を一般向けに説明するとき,どのような言葉を使えばわかりやすく伝えられるのか?」といった観点で本を読むことでも,様々な創意工夫点を学ぶことができる本です。


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