セラピストにむけた情報発信



脳卒中片麻痺患者の上肢動作訓練:音を利用したフィードバック効果
(Chen et al. 2015)




2015年11月2日
今回ご紹介する研究は,脳卒中片麻痺者の上肢動作訓練に対して,音やリズムを用いたフィードバックが訓練効果を増大させるかについて,ケーススタディ的に検証したものです。

Chen JL et al. The use of augmented auditory feedback to improve arm reaching in stroke: a case series. Disabil Rehabil 2015 in press(10pages). DOI: 10.3109/09638288.2015.1076530

この研究の背景には,「聴覚-運動連関」に関する最近の研究成果があります。脳内の聴覚野と運動関連領域との間には密接な関連性があるという報告が,ここ最近多く見られるようになりました。こうした関連性に基づけば,音や音楽を聴くことで,運動関連領域を賦活させることができ,運動の制御や学習にプラスの効果があるのではないかと期待されるわけです。

好きな音楽を聴きながら運動をすることは,それだけでも快感情を惹起させる効果も期待されます。リハビリ対象者が運動を学習する困難や心的苦痛を和らげる効果も期待できます。

著者らはこうした背景に基づき,5名の片麻痺者を対象として,音を利用したフィードバックの効果を検証しました。対象動作は,麻痺側上肢によるリーチ動作です。リーチ動作時の上肢の関節可動域(肩・肘)の増大,および代償動作である体幹の動作の減少に,音のフィードバックが貢献するのかを検討しました。1日72試行の訓練を対象に音刺激をフィードバックし,その前後のリーチ動作がどのように変化したのかを検討しました。

フィードバック方法は2種類ありました。第1の方法は,リーチ動作時の手の軌道の良し悪しを,協和音(良い場合)と不協和音(悪い場合)を用いて,オンラインで知らせるというものでした。3つの関節(肩・肘・体幹)のいずれかが,あらかじめ決められた基準の範囲から逸脱した動きを示した場合,不協和音で知らせるようになっています。具体的に関節の動きが逸脱しているのかについては知らされないので,参加者はそれを自分で探索的に見つける必要がありました。

第2の方法は,リーチをするタイミングを音で知らせるという者でした。直感的に言えば,フィードバックというよりは,同期させるための音信号の呈示となります。音が鳴ったと同時にターゲットに触れられたか,それともずれてしまったのかを知ることが,結果的に結果のフィードバックとなるというロジックで,この効果を検証しました。

実験の結果,いずれのフィードバックも,5名の参加者のうち数名の参加者の動作を改善させました。つまり,全ての対象者に共通に有益な方法は見つけられませんでしたが,参加者の特性によっては,音刺激を利用することの有益性が見られる可能性を示しました。著者らは,こうしたケーススタディの結果は,より多人数に対する客観的な効果の検証を動機づけると結論しています。

この研究の著者の一人は,長年音楽の研究に携わっている藤井進也氏です(現在は,東京大学教育学研究科,特任助教)。ポスドクとして今回論文を発表した研究グループに加わり,リハビリに関連する研究に従事されました。国内に戻り,その成果をどのように発展させ,情報発信していくか,とても楽しみです。

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