セラピストにむけた情報発信



階段よりもエスカレーターを利用しがちな人は,階段の傾斜が急に見えている?
(Eves et al. 2014)




2015年6月22日
駅やデパートで上の階に上がる際,階段とエスカレーターが並んでいたら,ついつい,エスカレーターを利用しがちです。本日ご紹介する論文は,エスカレーターを利用しがち人ほど,階段の傾斜を急に感じている可能性について報告した論文です。

Eves FF et al. Does perceived steepness deter stair climbing when an alternative is available? Psychol Bull Rev 21, 637-644, 2014


この研究の著者らは過去に,重い荷物を持っている人や女性,および高齢者は,階段とエスカレーターが並んでいる状況において,よりエスカレーターを選択しやすいことを確認しています。

著者らは,エスカレーターを選択しやすいこうした人たちは,階段の傾斜を急に感じているため,エスカレーターを利用してしまうのではないかと考え,検証してみました。

第1の実験は,イギリスの駅構内で行われました。全部で269名の通行人を対象に,階段の傾斜度合について評価してもらいました。実験の結果,やはり女性や高齢者,体重の重い人のほうが,階段を急に感じていることがわかりました。ただしこれはあくまで「見た目で判断した場合」に限ります。階段の傾斜を手首の角度で表現する(つまり坂の角度に合わせて運動を調整する)場合,こうした傾向は見られません。

第2の実験としてショッピングモール内で同様の検証を行いました(階段についてはプロジェクターに投影された刺激を利用)。その結果も,第1実験とほぼ同様でありました。

以上の結果から,階段よりもエスカレーターを選択しやすい人は,階段の傾斜を急に感じているといえそうです。著者らは,環境に対する私たちのこうした知覚判断が,行動選択に関わっているのだろうと考察しています。

リハビリテーションのプログラムを「しんどい」と感じている人が,実際にどの程度しんどいと感じているのかを数量的に,かつ高い信頼性を持って評価するのは,必ずしも簡単なことではありません。今回の研究を応用すれば,坂や階段の傾斜のように,数量的に評価できる課題を持って,間接的に対象者のしんどさを測定できるかもしれない,という期待を持たせます。

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