セラピストにむけた情報発信



狭い間口の通過時に生じるすくみ足の症状改善に向けた介入事例
(奥埜ほか,2014)




2015年6月15日
狭い隙間の通過行動は,私の研究室のメイントピックの1つです。パーキンソン病患者のなかには,隙間を形作る視覚刺激に対して,すくみ足現象を生じさせてしまうことがあります。このため,パーキンソン病患者を対象とした隙間通過行動の研究は,国際的に見ると数多くの研究があります。一例についてはこちらをご参照ください

今回ご紹介するのは,隙間を通過する前に,通り抜ける動作をシミュレーション(イメージ)させることで,すくみ足を改善できることを報告した事例研究です。摂南総合病院の奥埜博之氏,沼津リハビリテーション病院の西島勇氏,国立障害者リハビリテーションセンター研究所の河島則天氏が報告された論文です。

奥埜博之,他 狭い間口の通過時に生じるすくみ足の症状改善に向けた介入事例.認知神経リハビリテーション 14, 71-76, 2014.

対象は70歳の男性であり,発症から9年が経過していました。隙間が肩幅の1.5倍よりも狭い状況において,顕著なすくみ足症状が生じていました。

様々な症状を観察した結果,奥埜氏らは,対象患者が狭い隙間に対してもほとんど体幹を回旋しようとしない点に着目しました。この点を改善しようとする介入として,歩行開始前に,隙間通過時に体幹を回旋する必要があるかどうかをシミュレーションしてもらう手続きをとったところ,すくみ足現象の改善が認められたわけです。

なお,こうしたシミュレーション以外にも,他動的な体幹回旋,およびその回旋度合いに対する意識化などの方法も試みましたが,得られた効果はごく短期的であり,シミュレーションほどの比較的長期的な持続効果は得られなかったということです。

こうした結果を奥埜氏らは以下のように解釈しています。もともと対象患者は,歩行制御の自律性が低下しており,認知的な資源を投入ながらバランスを維持していると考えられます。隙間に対してどのように歩行を調整すればよいかという判断それ自体にも,一定の認知資源が必要なことから,この判断を歩きながら(オンラインで)遂行しようとすると,認知的負荷が増大しすぎてしまい,すくみ足現象が生じたのかもしれません。

シミュレーションや運動イメージを用いた介入が歩行を改善するという事例報告は,知覚・認知と運動の不可分性を後押しするという点で,私自身は大変注目しています。

こうした研究で悩ましいところは,「対象者は果たして,研究者が要求したとおりにシミュレーションや運動イメージをしてくれたのか?」について,数値的に評価することが難しい点です。この点をシンプルに解決することはできません。したがって,効果が得られた対象者について複数の検討を行い,「得られた結果を,シミュレーションの効果として説明するのが,最も妥当である」と論理的に結論するための材料を集めることが重要なのだろうと思います。

私自身も将来,様々なセラピストの方々と共同で,こうした症例検討に携わる機会があればよいなと思う次第です。

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