セラピストにむけた情報発信



Learning from falling: 乳幼児の場合(Joh et al. 2006)




2015年4月27日

“転倒に学ぶ”というタイトルは,リハビリテーションに携わる方々の注意を引くタイトルです。今回ご紹介する論文は,15~39か月の乳幼児を対象として,ある場所での転倒経験後,すぐに適応的な歩行方略に切り替えることができるかについて検討した,10年前の論文です。

Joh AS et al. Learning from falling. Child Dev 77, 89-102, 2006

先に,先行情報をお話ししたいと思います。成人の場合,ある場所で一度つまずきや転倒を検討すると,その次には,その場所で再びつまずきや転倒がおこらないように,歩き方を微調整します。今回ご紹介する論文では,15~39か月の乳幼児の場合,こうした歩行の微調整が,一回の転倒経験の直後に起こるのかについて検討しました。

実験参加者は,数試行に1回の割合で,一部が柔らかいフォーム素材でできた歩行路を歩行しました。フォーム素材の場所は,通常の歩行路と色が違うなど,その違いは明らかでした。

ただし,どうやら見た目には固い床に見えるようで,統制群として参加した成人であっても,最初の歩行経験では,フォーム素材の場所を経験しました。成人の場合,次の試行からは転倒しないように,歩き方を変えることを確認しました。

乳幼児の場合,転倒を経験してから歩き方を変えるまで(もしくは,その通路を歩こうとしなくなるまで),最低でも3-4回の転倒経験が必要でした。15か月の乳幼児の場合,10試行以上連続して経験しても,一向に歩き方を変えないケースも見られました。

この研究は,発達研究を常にリードしている,ニューヨーク大学のAdolph氏の研究室で実施されたものです。彼らは,たとえ12か月の乳幼児でも,ある場面の危険認知自体ができることを何度も報告していますので,今回の結果についても,単純に危険認知力の欠如ではないだろうと考察しています。

成人の場合,ある場面でたった一回の転倒やつまずきの経験により,その場面と転倒とを結びつける能力があります。よって,次に同様の場面に出くわした時には,適切な対処方略が取られます。一方,幼児の場合,この結び付けをおこなうためには,一回の転倒やつまずき経験では足りず,もう少し多くの経験が必要なのだろうと,著者らは結論付けました。
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