セラピストにむけた情報発信



パーキンソン病患者のデュアルタスク歩行能力を高めるための介入プログラム:
パイロット研究(Yogec-Seligman et al. 2012)




2015年3月9日

デュアルタスク歩行能力とは,歩行とは無関連のことに注意を向けたり思考を巡らしたりしても,歩行中のバランスを維持し,目的地に向かって推進できる能力です。デュアルタスク歩行能力が低下すると,転倒危険性が高くなるという指摘が多くあります。このため,デュアルタスク歩行能力をどのように高めるかということが,大きな議論の1つになっています。

今回ご紹介するのは,パーキンソン病患者のデュアルタスク歩行能力を改善するための介入の効果を検討した,パイロット研究です。

Yogev-Seligmann G et al. A training program to improve gait while dual tasking in patients with Parkinson's disease: a pilot study. Arch Phys Med Rehabil 91, 176-181, 2012.

7名のパーキンソン病患者を対象として,週4回,4週間の介入がなされました。

1日の介入として,5分間の歩行×5セッションのプログラムが組まれました。このうち3セッションについて,デュアルタスク歩行を行いました。認知的課題として,計算課題や語彙課題をおこないました。

介入後の歩行機能を,歩行速度や歩幅の安定性により評価しました。その結果,通常の歩行時,そして介入中に実施したデュアルタスク歩行時のいずれにおいても,介入前の事前測定時よりも成績が向上していることがわかりました。一部の評価については,介入後4週間の評価においても,その機能が維持されていることがわかりました。さらに,介入中には実施していない認知課題とのデュアルタスク歩行時においても,歩行機能の向上が見られました。

以上のことから,デュアルタスク歩行を実施する介入プログラムには,一定の効果があることが期待されます。

ただしこの研究は,あくまでパイロット研究です。パイロット研究とは,簡単に言えば予備的研究です。検証しようとする介入について一定の効果がありそうかの見当をつけるため,通常は少人数サンプルを対象という予備的に行います。

今回の研究の場合,コントロール条件の参加者が含まれていません。よって,報告された効果は,単に対象者の自然な機能回復を反映したものかもしれません。もしくは,同じ測定を繰り返すことによる成績向上(順序効果)かもしれません。したがって,ここで紹介した効果が真の効果であるかを検証するのは,次の実験ということになります。

大人数の対象者を対象に無意味な実験をするというのは,参加された対象者にとっても不利益です。そうした懸念を少しでも払しょくするために,周到に用意されたパイロット研究は,重要な位置づけを持ちます。

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