セラピストにむけた情報発信



エクササイズによってデュアルタスク条件下でのバランス能力は高まるか?
システマティックレビュー(Gobbo et al. 2014)




2015年2月13日

高齢者のうち,特に注意の機能や実行機能(executive function)が低下している高齢者の場合,デュアルタスク(二重課題)条件下でのパフォーマンスが低下することが予想されます。立位姿勢保持中や歩行中のデュアルタスクによってバランスが崩れると,転倒にも結びつきかねません。こうした背景から,デュアルタスク条件下でのバランス能力を向上させるための介入方法が,様々な形で検討されています。

今回ご紹介するのは,様々な形の運動・エクササイズを介入としてデュアルタスクでのバランス能力向上を目指した研究をレビューした研究です

Gobbo S et al. Effects of exercise on dual-task ability and balance in older adults: a systematic review. Arch Gerontol Geriatr 58, 177-87, 2014.

システマティックレビューという方法に基づき論文を絞り込んでいった結果,8件の論文が,様々な基準を満たした関連論文として選ばれました。エクササイズとして,太極拳のような既存のエクササイズを利用した研究や,デュアルタスク条件下でのエクササイズを利用した研究など,様々なものがありました。

レビューの結果,必ずしもエクササイズによって,デュアルタスク条件下のバランスが劇的に改善するわけではないことがわかりました。立位姿勢課題の場合,左右方向の姿勢動揺量の減少を報告している研究が一例あるものの,前後方向の動揺量の減少を認めた研究はありませんでした。歩行については,歩行速度の増大が見られた研究があったものの,例えばTUGのように既存の評価の改善が見られた研究はありませんでした。

以上のことから,少なくとも今回選ばれた,適切な方法に基づいて検証した8つの論文を見る限り,エクササイズの効果は限定的であったと言えます。

ただし,ここで効果が限定的としているのは,あくまで “デュアルタスク条件下でのバランス能力”に注目した場合です。たとえば反応時間の素早さが求められるような課題の成績については,反応時間の短縮が比較的多く見られています。つまり,エクササイズが全く無駄というわけではなく,間接的にはバランスの問題とも関わる特性の改善には寄与するともいえます。

このレビューで絞り込まれた8つの論文の中には,日本人研究者によって行われた論文が4つも含まれています。この領域に日本人研究者が以下に貢献しているかかがわかります。

この文献は,国立長寿医療研究センターの牧迫飛雄馬氏にご紹介いただきました。ここに記して謝意を表します。

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