セラピストにむけた情報発信



高齢者の健康のための携帯電話使用:レビュー(Joe et al. 2013)




2015年1月26日

携帯電話がこれだけ普及していることもあり,携帯電話を高齢者の健康な生活に役立てようとする研究が数多くあります。今回は,こうした研究をレビューした論文を紹介いたします。

Joe J et al. Older adults and mobile phones for health: a review. J Biomed Inform 46, 947-954, 2013

論文のイントロダクションではまず,高齢者においても,携帯電話普及率が非常に高いという数値情報が示されています。ある調査によれば,2012年現在,アメリカでの65歳以上の高齢者の携帯電話所有率は,69%ということです。これは,デスクトップパソコンの所有率(48%)や,ノートパソコンの所有率(32%)に比べて,はるかに高い数値でした。こうした高い普及率に加え,携帯性に優れるという利点から,携帯電話を高齢者の健康のために役立てようという試みが,数多くなされています。

この論文では,高齢者と携帯電話の両者をキーワードとして持つ研究をレビューし,最終的に21の関連論文をピックアップしました。これらの論文を,高齢者のタイプや症状別に10のカテゴリーに分類し,その内容について解説がなされました。

以下は,著者が設定したカテゴリーとは別に,私個人として注目した特性について説明します。

いくつかの研究では,携帯電話を高齢者の“見守り”のための使用を試みています。定期的なカメラ映像のモニタリングによる日常生活のケアし,GPS機能による認知症者の所在確認,または加速度センサに基づく転倒の検出など,様々な試みがなされています。

問題の早期発見という意味では優れた利用法ですが,常に監視されているということに対する倫理的問題や,高齢者の抵抗感の問題があることも事実です。

また,定期的な情報提供で高齢者が自己管理をしやすくなるシステムを開発する研究や,携帯写真を通した医師の診断が,対面型の診断と同程度に皮膚の問題を判断できるかを検討する研究などもあります。

日本人の研究も複数紹介されています。筑波大学の山田実氏がおこなった,携帯電話を使ったデュアルタスクトレーニングの開発も,その1つです。研究結果は,必ずしも高齢者に対して非常に有益というわけではありませんでした。しかし,国際的に普及可能なシステムであるというポテンシャルや,非常に多くの参加者(318名)を対象とした点が,高く評価されています。

レビュー論文の著者は,21の論文のほとんどが,少ないサンプル数に基づくパイロット研究であることも含め,今後の研究の発展が重要であると指摘しています。

この論文は,歩きスマホ(スマホのながら歩き)の問題を調べていくうえで,たまたま見つけたものです。現状では,高齢者が歩きスマホをするというリスクは,それほど高くないでしょう。しかし,今後携帯の普及率がますます上がり,その使用が推奨される時代になると,歩きスマホによって高齢者の安全性が損なわれる,といった問題が起こるかもしれません。


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