セラピストにむけた情報発信



周辺視野に基づく上肢のリーチング動作:立位バランス回復時の検討
(King et al. 2010)




2015年1月13日

一般に,上肢のリーチング動作においては,リーチングの対象物(ターゲット)を中心視野でとらえます。周辺視野でターゲットを捉えた場合には,中心視野でとらえた場合に比べて,正確性にやや欠け,なおかつリーチの速度が遅くなる傾向があります。

今回ご紹介するのは,立位中に不意にバランスを崩した時に手すりを持つ場面(すなわち,手すりに対してリーチングする場面)において,周辺視野に基づいてどの程度正確に実行できるかを検討した論文です。カナダのBrian Makiのグループが行った研究です。

King EC et al. The use of peripheral vision to guide perturbation-evoked reach-to-grasp balance-recovery reactions. Exp Brain Res 207, 105-118, 2010

実験では,若齢参加者が,前後に動かすことができるプラットフォーム上で立位姿勢を保持しました。実験中,プラットフォームが不意に前後のいずれか一方に動きました。参加者は,プラットフォームが動いたら即座に手すりをつかむことが求められました。

視覚条件として3条件が用意されました。第1の条件は,常に手すりを見ている条件(中心視)でした。第2の条件は,参加者の正面にあるコンピュータのモニター上の固視点を見ている条件でした(周辺視条件)。第3の条件は,モニターに出てくる特定のアルファベットの数を数えるという認知課題を行いながら,この課題を行う条件でした(周辺視+認知課題条件)。つまり第3の条件は,デュアルタスク条件での課題遂行となります。

実験の結果,たとえ周辺視野で手すりを捉えたとしても,中心視条件とそん色なく,安全に手すりを握ることができました。手すりを中心視野でとらえた場合に比べて,リーチ速度は遅くなるものの,リーチが不正確になることはありませんでした。認知課題を同時に行う条件であっても,統計的に有意なレベルまでリーチが不正確になることはありませんでした。

これら一連の結果は,周辺視野情報が不意にバランスを崩した時の上肢動作の制御にも貢献していることを示しています。歩行中や立位姿勢保持中にバランスを崩した時,そのバランス回復に上肢動作が有益である場合があります。こうした状況では通常,バランスの崩れを予測していないため,手すりなどを固視していることはほとんどありません。今回ご報告した研究は,周辺視野で手すりを捉えることができるだけで,バランス回復のために正しく上肢を使うこと(手すりや壁に触ることなど)ができる可能性を示しています。

(メインページへ戻る)