セラピストにむけた情報発信



静止立位課題で日常生活の立位バランス能力を評価できるか?
:注意の観点から(Mitra 2013)



2015年1月5日

新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。新年最初にご紹介する論文は,静止立位課題(quiet standing)を用いたバランス評価に関して,ある種の問題提起をしている論文です。

Mitra S. et al. Divergent effects of cognitive load on quiet stance and task-linked postural coordination. J Exp Psychol Hum Percept Perform 39, 323-328, 2013

静止立位課題を用いて立位バランスを測定するとき,測定対象者は,揺れないように立つことが求められます。この際,対象者の注意は必然的に,立位姿勢それ自体に向けられることになります。

しかし,日常生活において立位姿勢を保つということは,決してそれ自体を目的としているわけではありません。立つこと自体はあくまで別の作業のための手段に過ぎず,通常は別の作業に注意が向けられます。このように考えると,静止立位課題は,注意の方向性という意味では,日常生活における立位姿勢の保持とは異なる側面を持つのではないか,というのが,この論文の主張です。

こうした主張の妥当性を評価するため,この論文では,デュアルタスク状況がもたらす影響について,通常の静止立位課題と,別の視空間作業のために立位姿勢時の揺れを最小限に保つ課題とを比較しました。後者の課題では,ヘッドマウントディスプレイ上に2つのカーソルを呈示しておき,揺れを抑えることで2つのカーソルを一致させることが求められました。

デュアルタスク条件で用いる2次課題として,2種類の課題(空間性・非空間性)を用いました。その結果,静止立位課題の場合には,いずれの2次課題を用いても,姿勢動揺量が増大しました。これに対して,視空間作業課題の場合には,いずれの2次課題を用いても姿勢動揺量に変化は見られませんでした。これらの結果から,デュアルタスクの影響という観点から言えば,2つの姿勢課題は異なる特性を持つことが示唆されました。

これらの結果に基づき著者らは,静止立位課題で得られた結果は,必ずしも日常生活における立位バランス特性に一般化されないかもしれない,と指摘しています。このように考えると,日常生活における立位バランス能力を評価するためには,静止立位課題による評価だけでなく,日常生活動作時における立位バランスの評価(例えば,高いところにある荷物の出し入れ時や,他者と会話しながら立って会話をしている時の評価)を考える必要があるかもしれません。


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